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もうずっと、追い詰められていた美蘭だから、あずさ以外の誰かにも、話を聞いてもらいたかったのかもしれない。
「そんなに酷い彼氏さんなら、谷口さんも浮気しちゃえばいいのに」
リカとのメッセージやありきたりになった会話など、全てを洗いざらい打ち明けた美蘭へ翔眞が提案したのは、目には目を、的なこと。
「う、浮気?わたしそんなこと、しないですっ」
これは冗談なのか本気なのか。翔眞の真顔が美蘭を混乱させるけれど、「だって相手はしてるんだし」と言われれば、彼の本気が伝わった。コロッとまた埋まる距離。今にもキスできそうなほどに近付かれ、美蘭は視線を斜めに逸らす。
「い、一宮さんはしたことあるんですか?そのお、浮気……」
「ないよ、そんな最低なこと」
「で、ですよね。わたしもしません」
「でも、谷口さんの恋人はしてる」
「……」
目には目を、歯には歯を。そんな考え方の持ち主ならば、じゃあわたしだってと勇むかもしれないけれど、美蘭は違う。返す言葉に困っていると、翔眞の口が再び開く。
「俺は谷口さんの恋人と違って浮気なんて絶対にしない、したくない。だけどね」
そこで翔眞が言葉を止めたから、続きが気になり視線を移すと。
「だけどね、谷口さん」
先ほどと比べてずいぶんと穏やかになった表情に、美蘭はごくっと息を飲む。
「俺は今、谷口さんを抱きしめたいと思ってる。これは浮気になるのかな」
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