#06 近付く距離

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「ねえ美蘭」 「はい」 「俺のことも、翔眞って呼んで」 「え」 「一宮さんじゃなくて、翔眞がいい」 「いえいえそんなっ、それは無理ですっ」 「どうして?」 「だ、だって一宮さんは先輩ですし、おこがましいって言うかっ」 「そんなの気にしないのに」 「わたしは気にしますっ」 「そっか……あ、そうだじゃあ、翔眞くんは?」 「む、無理」 「ん〜……じゃあ、翔眞さん」 「……」 「オッケ。翔眞さんで決まりね」  そう言って、抱きしめる力を緩めた翔眞が面前で微笑むから、美蘭もそれにつられてふふっと笑う。 「なんですか、この会話……」 「さあ」 「わたしさっきまで、彼氏の最低話して泣いてましたよね?」 「うん、泣いてた」  それなのに笑っている今がおかしくて、美蘭にまた溢れる笑み。 「なんか本当、ありがとうございました」 「え?」 「一宮さんに今日話せなかったらわたし、また親友に長々と電話しちゃうところでした」  てへっと舌を出した美蘭へ、放られるのは軽いデコピン。 「だーかーらー。一宮さんじゃなくて翔眞さんっ」 「ああ、えと、翔眞、さん」 「俺でよかったらまた、話聞くからね」  額に手をあてながら、美蘭は「よろしくお願いします」と笑顔を見せた。
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