#01 別れの曲

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 うう、と涙を堪えていれば、ふいに落とされるキス。 「じゃあこれで仲直り。な?」  康隆の舌は無遠慮に美蘭の唇をこじ開けると、彼女の口内を這いずりまわる。 「ん、んんっ」  情熱的なキスは、喧嘩の後やセックスの最中に多い彼。だから美蘭は懸念した。まさかこんな異様な空気の中で、ことに及ぶのかと。 「やっ、ちょっと康隆やめっ」  胸元の生地を引っ剥がされ、美蘭は思わず抵抗した。 「ああ?」  するとすぐに鋭い目つきで威嚇され、自身の犯した失態に気付く。殺される。そんな恐怖はまだ、すぐそこに居座っているのだと。 「『ちょっと康隆』ってなに。『やめ』……?」 「あ、いやえっと……」 「なんか言いたいことあんなら言えよ!」  康隆やめて。そんなこと、この状況下で言えるはずがない。だから美蘭は覚悟を決めた、この厭わしい人間と交わる覚悟を。 「さ、最近わたしたち、ヤってなかったからさっ。だからちょっと、緊張しちゃっただけっ」 「緊張?ははっ、今さら?」 「だ、だって本当に久しぶりじゃないっ」  康隆がリカばかりを欲するようになってから、もうどのくらいが経つだろう。康隆があの子に靡かなければ、わたしはずっとずっと、あなたを好きでいられたのに。  未練などはもうないが、リカさえ現れなければ今は違っただろう、と美蘭は時折思ってしまう。康隆にされるがままに、露わになる身体。彼も同じような姿になれば、ふたりはひとつに。 「好きだよ美蘭っ。生涯俺の女でいてっ」  気持ちよくもないセックス。早く終われと願う美蘭をよそに、それは優雅なクラシックのように、存分な時間をかけて行われた。
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