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#02 歌詞のないメロディー
「あら、この部屋いいじゃない。さっきの物件と比べて家賃が低いのに、広々としてて」
時は二年前に遡る。大学四年生の康隆はこの日、自身の母と美蘭と共に、物件を探してまわっていた。
「うーん。まあ、悪くはないけど、収納がちょっと少ないかな」
「収納なんて、これくらいあればじゅうぶんでしょ。あなたひとりなんだから」
「俺じゃないよ、美蘭のものが多いんだよ」
「まあ、康隆ったら。ひとり暮らしがしたいだなんて言ってたくせに、美蘭ちゃんと同棲する気なの?」
「違う違うっ。同棲するつもりはないけどさ、それでもたまに、泊まりにはくると思うから」
そう言って、クローゼットを開ける康隆の隣、美蘭もひょこっとその中を覗く。
「このくらいあれば、じゅうぶんだよ。わたしもその都度、荷物は持ち帰るようにするし」
「そう?まあ、パジャマとかは俺の使えばいいしな」
「うんっ。康隆が持ってるウニクロのスウェット、肌触りいいから気に入ってるんだよね。この前わたしもほしいと思って買いに行ったら、もうレディースサイズはなかったの。もしあったら、ペアルックになったのになあっ」
「じゃあ今度、なんかお揃いのもん買いに行こ」
「行く行くー♪」
こんなバカップルな会話を康隆の親の前で堂々とできるのは、彼等がもう、二年間も付き合っている恋人で、その間に美蘭も、彼の母と親しくなったから。
「ねえ美蘭ちゃん。そろそろ時間、大丈夫?」
康隆の母がそう聞いたのは、美蘭に今日、予定があると知っていたから。鞄から取り出したスマホで時刻をチェックした美蘭は、「もうこんな時間」と呟き頭を下げる。
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