二つの浮島

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二つの浮島

 はるか遠いむかし、太平洋の大海原を、右回りに巡る太い黒潮の流れが、一部、琉球列島を過ぎるあたりで大陸側にせり出し、対馬を挟む西東の水道を抜けて、日本海に流れ込んだ。これを対馬海流という。  黒潮は暖流である。分流の対馬海流も、暖流である。     暖流は冷たい海水を攪拌し、海底の堆積層を、容赦なく浸食する。黒潮の分岐以来、海峡の島々は、ことごとく、侵される土壌の歴史を、刻むことになった。  浸食の過程で、剥離した堆積物を土台に、大小さまざまの浮島が誕生した。多くは、時間とともに水没し、分解、散逸し、跡形もなく消えていったが、いくつかは、固有の胆力を生かし、生きのびた。  その一つは西水道に、もう一つは東水道に、拠点をみつけた。西水道に浮かぶ島を、西の浮島、東水道に浮かぶ島を、東の浮島、と人は呼んだ。  二つの浮島は、不思議な動きをした。  西の浮島は、右回りに自転し、半島ぞいに北上、やがて東に回りこむ。東の浮島は、左まわりに自転し、列島ぞいに北上、やがて西に回り込む。こうして、二島は、月の満ち欠けに合わせ、洋上を循環した。  やがて、地殻変動の影響下、東と西から相互に回り込む二つの浮島は、ちょうど新月の日に、対馬の真北数キロで鉢合わせし、干満の十二時間、数百メートルの間をおいて、対峙するようになった。
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