船頭の述懐

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船頭の述懐

 ワシは、ここ、東の浮島の生まれじゃが、小さいころ、まだ、あの手の結繩は、どこにいっても、見かけんかった、あることすら、だれも知らんかった、そんなもんじゃった、それが、どうじゃ、いまは、村という村、浜という浜、山という山、どこにいっても、きまって、あの結び目が、目に飛び込んできよる、なにがどうだ、というわけではない、ただ、得体が知れんのじゃ、鬼が出るか蛇が出るか、まるで見当がつかんのじゃ、それゆえ、ワシらには、気味のわるい結び目なのじゃ、しかし、そんなこと、まるで意に介しない、というもんがおる、ほら、たったいま、西から東に、渡っていったひとらも、そのうちじゃ、あの島で、なにをした? なにがあった? なんで、あんなに、楽しそうなんじゃ?…新月が巡るたびに、ワシは、おなじ問いをくりかえすんじゃが、いまだに、答えは出てこんのう、なさけないことじゃて、哀れにおもうてくだされ、旅の人…。
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