白告鳥

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億日紅が咲いている。 別名は、というか、もとの名は桜。 散り際が最も美しい花。 その儚さが象徴だったというのに。 散ることのなくなったこの薄紅など、青空を隠す障害物でしかなくなってしまった。 凍てつくような川沿いの明け方。 あの国ではどこへ行っても、川沿いの土手の億日紅という風景があった。 誰も見向きもしないというのに、形だけ残った桜並木。 まさか海を渡っても出会うとは思わなかった。 自分の視覚回路をいじって、桜の散る風景を投影する。 億日紅の終わりのまやかし。 ひらひらと降り注ぐ薄紅の雨。 「好きだったよ。  最初に会った時から」 思い出してしまう。 白い羽根が振るあの日の光景。 “壊さなければ” それを知るために近づいた。 でも、知りたくなかった。 「行こうか」 肩の上で首を傾げた小鳥は、足に識別コードをつけている。 ユーグがあの場で作った捕獲用プログラムをもとに、手懐けた白告鳥。 その小鳥は、トナの肩を飛び立ってしまった。 「あっ」 まあいいか。 最も知られたくない秘密を。 最も知られたくない相手に。 告げに行ってしまった。 終
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