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「ただいま」
人通りのない裏路地。
看板のない店。
狭い店内にはジャンクパーツが溢れていて、身の置き場もないほど。
表向きは、電子脳のメンテナンスを請け負う店。
「おかえり。
怪我させて悪かったな」
ついさっきまで、その目を閉じて電脳世界にいたのだろう。
ユーグは眩しそうに目を細めて立ち上がる。
「別にいいよ」
「闇医者と新しいチップを手配した」
放られたものをキャッチする。
「新しいチップを入れるまでの代わりだ」
四角い手のひらサイズの液晶端末。
「旧時代の通信機能付き外部メモリ。
お前のID認証入れた」
レンは巻き付いていた紐状のものを解き、二股に分かれた先端を両耳に突っ込む。
何か聞こえたらしい。
にやりと笑う。
四角い端末をポケットに突っ込む。
「ユーグが謝るなんて珍しいな」
トナが言うと、レンはまた浮かない顔をした。
これは気まずい時の顔か。
「データを抜かれると思ったから、
先に俺がレンのチップを壊した」
ユーグは悪びれもせず、そう言ってのける。
「はあ?」
「こう、ハッキングして内側から負荷かけて」
ボカン、と。
手を開く。
「どうせ秘密を抜かれたらチップも壊れてた」
レンは笑う。
トナは首を振る。
「無茶するなよ。
鳥は3人で追ってきただろ。
私抜きで行くな」
「なぜ追ってるのかも教えてくれないのに?」
「そっちもだろ」
「俺たちは興味本位って最初に言った」
「嘘」
5ヶ月前に会った時からそう。
お互いに、鳥を追う理由も、自分の過去も、何も教えない。
トナは頑なに何も言わない。
ユーグは適当な嘘をつく。
時々仕入れてくる情報を見る限り、トナもユーグ並みのハッキングの腕があるはずだけど、その手腕は見せようとしない。
ユーグも聞かない。
ユーグとトナの関係が、レンはもどかしかった。
見えないものは苦手なのだ。
触れて、言葉にして、形にしないと。
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