白告鳥

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いつだったか。 出会って数週間の頃。 新しい情報がないかと、店に立ち寄った時。 ユーグは端末を操作していた。 どうやら自作の人工知能を動かしているらしい。 レンが適当に座るよう促す。 最初の頃、トナは身の置き所が分からず、不衛生な物の上に座る気にもなれず突っ立っていた。 最近は諦めもつき、ガラクタがうず高く積まれたソファの、わずかに突き出した肘掛け部分に腰掛けるようにしている。 横を向くと、飛行機の玩具が吊るされている。 操縦士が手を降っている。 息を吹きかけると前のプロペラが回る。 「俺のこと好き?」 振り返ると、ユーグがPC画面に話しかけている。 『はい』 PCのスピーカーから答えが返ってくる。 「それはなぜ?」 『嫌う理由がないからです』 ユーグは、人工知能と会話しているらしい。 レンは呆れ、トナは肩をすくめた。 「俺とセックスしたい?」 流石にトナの顔が引きつったのを見て、レンが手近なガラクタを投げつける。 頭に鉄の機械が当たり、ユーグは顔をあげた。 「トナ、来てたんだ」 「AIとヤるならひとりの時にしろ」 「え?」 気まずさなど微塵も感じていないらしい。 呆れたレンが当てつけに、ユーグを指差してAIへの質問を再開する。 「こいつとセックスしたい?」 『いいえ』 即答。 「はい残念でした」 言いながら、問いに答えたAIの端末を閉じる。 トナは苦笑して頭を抱えた。 「違うって。  人工知能は、  どうやったら恋愛感情を持つのかって、  気になったんだよ」 口を尖らせて言い訳する。 「嫌いじゃないなら好きなんだろ」 閉じたPCを指さす。 「それは結局、  親愛や友愛と見せかけた隷従でしかない。  自分を作ったものに敵対しないってだけ。  自分を壊されたくないから」 「恋愛はそうじゃない?」 トナの問いに頷いた。 「恋愛は性欲につながって、  性欲は生殖につながる。  つまり、種族の境界を壊す。  ニンゲンを滅ぼすことにつながる感情だ」 立ち上がる。 「まだ誰も、作り出せていない」 いつも電脳世界に向いている目に見つめられ。 純粋な興味ほど、怖いものはないと。 あの時、トナは思ったのだった。
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