白告鳥

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イヤホンを耳に入れて歩き回るレンの肩に、綿のようなものが付いていた。 白い。 ふわふわと揺れる小さな塊。 「レン、ゴミついてる」 「え?」 指さされた右肩をパタパタと叩くが、取れる気配はない。 トナが取ってやる。 「朝、見た羽根だ」 風に吹かれて飛んでいったと思っていたが、コートにでもまとわりついていたのだろうか。 綿のような小さな、鳥の羽根。 一緒に移動する中で、レンの服についたのかもしれない。 ゴミ箱に捨てようとするが。 「それ」 ユーグが指さすので、捨てるのをやめ、つまんだ羽根を見せる。 そもそも、この部屋にはゴミ箱もなかった。 「レン、見えるか」 人差し指と中指でつまんだ先端。 レンは目を細める。 チップの壊れたレンの目には、何も映らない。 つまり、現実世界にはない。 電脳世界の鳥の羽根だ。 「鳥の痕跡…」 「かして、DNAを読めるかも」 ユーグは、その目でスキャンし始める。 いつの間にか。 羽音が聞こえる。 パサパサと。 「この音」 「音?」 レンはまた首を傾げる。 「来た」 ユーグが、珍しく笑っていた。 その姿を見たら感染する。 抜け落ちた羽根でも感染するのだろうか。 床に落ちる影が動く。 あっちで。 こっちで。 鳥がいる。 何羽いるのかも分からない。 「トナ、目を閉じろ」 言われて固く閉じる。 羽音が余計に大きく聞こえる。 もう遅い。 きっと感染している。 パサパサ。 パサパサ。 ガラクタの間を飛び回っているのが分かる。 すぐ近くだ。 次に目を開けたら。 目の前にいるかもしれない。 いきなり身体がふわりと浮いた。 「レン?」 手つきと匂いですぐに分かった。 抱え上げられている。 「店の奥にオフラインシェルターがある。  あそこなら感染しない」 「待って、私もやる」 「いいから」 目を塞がれ、有無を言わせず店の奥へ。 入ったことのない場所の匂い。 ひんやりと冷たい空気。 重い扉の開く音。 あらゆる電波を遮断する分厚い壁を感じる。 床に下ろされ、目を開ける。 「私抜きでやるなって」 「感染したらどうなると思う」 声を落として言われる。 掴まれた腕が軋む。 「何…」 「触れば分かる」 もう、ごまかしは効かない。 「体格に比べて重すぎる。  全身機械化してるだろ。  感染すれば、その身体ごと使えなくなるぞ」 ばれているならしょうがない。 何も言わずに。 掴まれた腕の関節部を取り外した。 「ト…」 不意打ち。 レンは目を見開く。 腕はそのままに。 力一杯。 レンの腹を蹴りつけた。 「重っ…」 「うるさい」 そのまま壁に叩きつけ。 扉を閉じる。
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