白告鳥

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白告鳥(シラツゲドリ)を知っているか。 その姿を見たものは、秘密を暴かれる。 かつてこの土地で。 春告鳥が冬の終わりを告げて回ったように。 その可憐な小鳥は秘密をさえずる。 大切な秘密を、最も知られたくない者の前で。 トナは白告鳥を追っていた。 都市伝説だと笑う奴もいる。 でも、あの鳥は本当にいる。 髪をかきあげ、からりと晴れた空を見上げる。 雲が流れる。 小春日和だ。 自分の電子脳に、この空を保存するよう命令を出す。 視界が四角く切り取られ、脳から無線通信を介してクラウドにデータが保存される。 画像フォルダを見るとその人となりが分かるというが、トナのフォルダは、ふと見上げた空の画像で溢れてしまっていることだろう。 記憶。 思考。 感情。 人の脳の電気信号は、そのほとんどが大脳基底核を経由している。 2070年、その信号の全識別がついに可能となり、その後10年で信号への干渉、つまりコントロールの技術が生まれた。 それから20年。 2100年の祝賀と同時に、この国は全国民の電脳化を進めた。 現在、この国に戸籍のある6歳以上の者は皆、大脳基底核に電子脳制御チップを埋め込んでいる。 記憶をデータバンクに保存し、目がカメラに、耳がマイクになった。 思考をプログラムに肩代わりさせ、ヒューマンエラーのない処理演算が可能となった。 忘却も誤謬も起こさない。 ニンゲンは無意識の世界を手放し、代わりに現実とオーバーラップする電脳世界を手に入れた。 鳥もまた、電脳世界にいるのだ。
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