春あけぼのの騙しあい

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 淡い青を湛えた空が、一面に広がっている。ひなたへ出れば暖かい。もう春が来たのだと、つい騙されそうになる。辺りの木々はまだ蕾のままだった。  一方、彼女として彼の家へ行く約束を取り付けた私にはほんの「仮初(かりそめ)」の春が訪れていた。  彼との距離を近づけるため、私の友人に彼への感情を打ち明け、彼の友人と知り合い、そのうえで、さりげなく彼と目を合わせる回数を増やすなどした。  しかし彼は、むしろこちらへ見せつけるように他の女性たちと会話した。弾けるような笑みを彼女たちに向ける。私にはしたり顔をちらちらと寄越すだけだ。しかもそのうえで「彼女欲しいなあ」などと白々しくのたまう。そこに何かメッセージが込められているとしたら──。 「さようなら、かな」  小さく呟いた言葉が、およそ女子大生が住んでいるとは思えないほど散らかった部屋に、虚しく吸い込まれた。 「私と、付き合って、ほしい、です……」  尻すぼみになり、何とも情けない告白になってしまった。希望を捨てられなかった私は、砕ける覚悟で、言葉を放った。歯を食いしばりながら俯いた。  ところが、彼はとろけるような甘い声で「いいよ」と返事をした。  その瞬間、私の脳内で激しいサンバが流れ出した。当時はただ目を丸くして固まるだけだった。けれど家に帰ってから彼の言葉を思い出しては即興で踊り、箪笥に小指をぶつけた。  いや、だめだ、と自分の頬を叩いた。  浮かれに浮かれたが、私はあくまで「歴代彼女の一人」でしかなかった。愛の告白なんて、所詮はお互いの立場を保証するための契約だ。彼への感情が膨らみすぎないように自分を騙し続けてきた。相手も同じ熱量を抱えていることを求めつつも、理想はただの理想なのだ。  防御線を張り巡らしたところで、彼の家へ急いだ。
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