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大通りを、スキップする勢いで進んだ。鼻歌さえ歌いたくなった。脳内で繰り広げられていた喜びの舞いは、速さを増してユーロビートダンスに変わっていた。彼の「風邪っぽい」顔が焼き付いて離れない。口が綻ぶのを止められない。
私はすっかり騙されていた。予防線を張ったことが既に罠だったのだ。さくらんぼのように真っ赤な顔で俯く彼を目の前にして、私の視界を狭めていた靄がさあっと晴れていくような気がした。
私に訪れていた春は仮初のものなんかじゃなかった。
暖かい風がふわりと髪を撫でていく。
速足で追い越していく木々には、よく見ると開きかけた蕾もぽつりぽつりとついていた。
ああ、私はまた騙されていた。
本当の春はもうすぐそこまで来ているのだ。
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