余命宣告

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余命宣告

「余命は半年です」    聞き間違えようもなくはっきりと告げられた言葉に、ありきたりな表現だが眼の前が真っ暗になった。    どうしてだ。俺はただ、少したちの悪い風邪くらいに思っていたのに。詳しい検査が必要だと言われて不安になりつつ、帰りが遅くなると妻に電話をかけ、『きっと大丈夫よ』とからりとした返事に安心したところなのに。  今ごろ家で妻は俺を安心させようと、いつものように豪華な料理を作っているだろう。夕食は俺の好きな天ぷらにすると話していたから。昨日もそうだった。病院に行く俺を励ますように、夕食に豚カツを出してくれた。いつもこうして何やかんやと理由をつけて俺の好物ばかりを出してくれる妻が誇らしかった。    あぁ、そんな優しい妻に何と話せばいいだろうか。あとたったの半年で俺がいなくなること。たったひとりであの広い家にぽつんと座る妻の姿を思い浮かべると、胸が締め付けられるようだった。
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