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妻の告白
「やっと死んでくれたわね。長かったわ、とても」
クスクスと笑いながらそう言っている。
何を、言っているんだ? 何の聞き間違いだ?
「あなた、知らなかったでしょう? 私があなたと結婚した理由が遺産だってこと。だってそうじゃない。それがなければ誰があんたみたいな三十も年の離れた老人と一緒になると思う?」
嘘だ、嘘だ。君は俺が好きだと言っていたじゃないか。
全力で叫ぼうとしても、無理だった。この瞬間、俺は自分がもう死んだことも忘れていた。
だけどやはりもう死んでいるのだ。聞こえてくる妻の笑い声も遠ざかっていく。意識が白く薄くなっていく。
こんなことなら耳も同時に死んでしまいたかった。何も聞こえない、幸福なままで死にたかった。
なぁ、理恵。俺は本当に君のことが好きだったんだ。だから君のために、遺産をすべて君に残した。それなのに、君はただそれだけが目当てだったのか。すべて、演技だったというのか。
悔しい……。悲しい。
「本当にこの十年は長かったわ。毎日毎日、早くいなくなってほしいと思ってた。だけどこれで遺産は私のもの。ねぇ。本当に、死んでくれてありがとう」
あぁ、もう何も分からない。もう何も聞こえない。ただ最後に聞こえた妻の笑い声だけが、未だ辺りに響いているような気がする。
クスクス、クスクスと……。
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