嬉し恥ずかし文化祭

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天野と別れた美紅は、人気(ひとけ)のないところを求めて図書室なども覗いてみたのだが、今日は一般客の出入りがあるため防犯の都合上、しっかりと施錠されていた。 結局は、校舎の外側に備え付けられている非常階段に隠れるようにして座り込む。 「……ぐすっ」 そこで、今までずっと我慢していた涙をぽろぽろと零す。 別に誰が悪いとか、そんなことは全く思っていない。 お客さんたちはイケメンを目当てで来ているのだから、あれは当然の反応で。 右京だって、普段から美紅のことだけをとても大切にしてくれているし、今日のあれだって、店員としてなら当然の態度なのだから。 それでも、綺麗な大人のお姉さんたちにチヤホヤと騒がれている右京を見ているのが、美紅にはとても辛かった。 嫉妬なんてする必要がないくらいに、右京が美紅を愛してくれているのは十分に分かっているはずなのに。 ヤキモチというよりは多分、不安なのだ。 “今”は美紅のことだけを見てくれていても、いつかは他の誰かの方がいいと思う瞬間が来るかもしれない。 少しでもそんな不安があるからこそ、誰も彼に近付いて欲しくないという、非常に身勝手な願望を抱いてしまうのだ。 こんな醜い感情を持っている自分がとても嫌で、それを右京に知られたくないから。 だから美紅は、ここで人知れず涙を流しながら、この嫌な感情が少しでも薄れてくれるのを待つことしか出来ない。
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