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どのくらいの時間、そうしていたのか分からない。
階段でうずくまったまま、こんな醜い感情なんて消えてしまえ、と心の中で唱え続けていると、
――ガチャッ……
一年生の教室がある三階の廊下と非常階段とを隔てる扉が、美紅の背中で開く音がして、
「美紅……?」
少し低めの、耳に心地良く響く、美紅の大好きな声が彼女の名を呼んだ。
「……」
美紅は答えず、制服のブレザーの袖で慌てて両目の涙を拭う。
そんな彼女を、
「こんなところで何してるんだ? 物凄く探したぞ」
カフェ店員の制服ではなく、この学校の制服姿の右京が、後ろからふわりと抱き締めた。
「みーく?」
泣いていることになんてとっくに気付いているだろうに、右京は敢えて明るめの声で美紅を呼び続ける。
「美紅のパンケーキにシロップかけに行けなくて、ごめんな?」
そんなことが悲しくて泣いているんじゃないのに。
涙に濡れてすっかり冷たくなってしまった美紅の両手の指先を、右京が両手でそっと包み込む。
「ここ寒いから、とりあえず中入ろう?」
「……」
美紅は無言のまま、首を横に振った。
こんな状態で誰かに出くわせば、誤解されて気まずい思いをするのは彼の方だから。
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