嬉し恥ずかし文化祭

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「……」 美紅が何も言わないので右京も無言になり、彼女の両手からそっと手を離して立ち上がる。 彼はきっとこの理不尽な態度に呆れてしまったんだ、と美紅はまた泣き出しそうになって―― 美紅の両肩に、温かい何かがふわりとかけられた。 それと同時に、右京の優しい香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。 何が起きたのかと慌てて右京の方を振り向くと、彼はこの肌寒い気温の中をカッターシャツ一枚だけの姿になっていて。 美紅の肩には、彼が今脱いだと思われるブレザーがかけられていた。 「彼女に自分の上着を着せるの、やってみたかったんだよな」 美紅と目が合った瞬間、右京は嬉しそうにニカッと微笑んでまたしゃがみ込むと、そのまま美紅の体をブレザーごとぎゅっと抱き締め直す。 「美紅? 何が悲しいのか、ちゃんと教えて」 「……右京くんに知られたくない」 美紅がいやいやと首を横に振ると、 「俺は美紅のことなら何でも知りたい。だから、ちゃんと教えて欲しい」 右京はめげずに、美紅を更に強く抱き寄せた。 右京にそんな風に言われては話さないわけにはいかないと思った美紅が、口を開こうとして―― 「……ん?」 悲しかった感情が、綺麗さっぱり消えていることに気が付いた。
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