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「右京くんは、もう戻らなくていいの?」
あれだけ人気者だったのだから、あのカフェに彼はまだまだ必要なはずなのに。
「スタッフは前半組と後半組に別れてて、俺は前半組。やっと出番が終わったから、もうずっと美紅と過ごせるぞ」
右京が嫌な仕事でも頑張れたのは、この後で美紅とあちこち見て回るのを楽しみにしていたから。
「初めてなんだ。文化祭を楽しみだなんて思えたのは」
優しい笑顔を向けてくれている右京を見て、美紅はスカートのポケットからハンカチを取り出して目に当て、涙をしっかりと拭き取った。
彼と一緒に文化祭を過ごせるのは、今年が最初で最後なのだから。
こんな泣き顔で過ごしていてはいけない。
ハンカチをポケットにしまい、美紅は顔を上げる。
「右京くん、お昼まだだもんね? 一緒に食べ歩き行こ!」
在校生は事前に食券を購入しているので、美紅はブレザーのポケットに入れているコインケースの中身を確認する。
そこにはまだ引き換えていない『焼きそば』、『たこ焼き』、『豚汁』、『ベビーカステラ』の食券が入っていて。
「相変わらず、美紅はよく食べるよなぁ」
さっきパンケーキセットを食べ終えたところなのに。
「食いしん坊な美紅も、可愛くて好きだぞ」
「……食い意地張ってる自覚はあるもん」
美紅は少しだけ拗ねてみせたが、優しく頭を撫でてくれる右京を見ていると、きっと彼は本音でそう言ってくれているのだと分かる。
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