嬉し恥ずかし文化祭

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その様子を、口の周りを赤色と黄色でベタベタにした二人が黙って見守る。 果たして美紅は、右京の手から爪楊枝ごと唐揚げを受け取るのか、それとも――!? 友人カップルの見ている目の前で、美紅は一瞬だけ恥ずかしそうに躊躇(ちゅうちょ)した後、 「あーん」 と小さく声を漏らして、唐揚げだけに食らいついた。 右京の右手には、今はもう何も刺さっていない爪楊枝だけが残されて。 「う、美味いか……?」 期待はしていたものの、まさか本当に自分の手から食べてくれるとは思っていなかった右京が顔を真っ赤に染めて恐る恐る訊ね、 「うん。おいひい」 まだ口をもぐもぐさせている美紅が手のひらで口元を隠しつつ、幸せそうに微笑みながら頷いた。 それが右京の目にはとんでもなく可愛く映って、 「そうか! まだあるぞ!」 紙コップの中に盛られた鶏の唐揚げをもう一つ爪楊枝で刺し、美紅へと差し出す。 「……ん……」 まだまだ咀嚼(そしゃく)中の美紅は、口の中のものを慌てて飲み込もうと悪戦苦闘。 そんな美紅を哀れに感じた村田が、 「おい、市川。急かしてやるなよ」 赤や黄色で汚れたままの口でそんなことを言って、そうしている間に、 「あっ! 最後の一口が!」 フランクフルトの最後の一口が、天野によって完食された。
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