余韻

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右京から期待と熱のこもった眼差しで真っ直ぐに見つめられた美紅は、その手を振り払うことなど当然出来ず―― 「お父さん、お母さん。今日は右京くんちに泊めてもらうから」 一旦帰宅してバッグにお泊まりセットを詰め込んだ美紅は、両親の営むレストランへと立ち寄り、その裏口の扉から顔を出してそんな宣言をした。 ……直後、 ――パリーンッ! 美紅父の手にしていた大皿がその手から滑り落ち、床にぶつかった衝撃で大きな音を立てながら木っ端微塵に砕け散った。 今はまだ店自体はディナーに向けて準備中なので、ホールの方に客人はいないのが不幸中の幸いではあるが、厨房の床はなかなか大変な事態に。 「きゃあっ! ナオくん、大丈夫!? 美紅ちゃん! 絶対にこっち来ちゃダメだからね!」 美紅母は、夫にケガがないかを確認後、厨房に足を踏み入れようとした美紅を慌てて手で制し、すぐに箒とちりとりを持ってきた。 妻がテキパキと動くその傍で、 「そんな……俺の可愛い美紅が……男のところにお泊まり……?」 割れた皿の傍で立ち尽くしたまま、美紅父が両手で頭を抱えている。 「右京くんとのお泊まりなら、もう夏休みに経験してるじゃないの」 何を今更、と美紅母は呆れたが、 「えぇぇぇ!?」 “同じ学校の友達数人と”とだけ聞かされていた美紅父は、その事実に気絶しそうな勢いで叫んだ。
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