余韻

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市川家の自宅に着くと、まずは夕食の準備。 とは言っても、美紅の母が適当に詰めて持たせてくれた料理を電子レンジで温め直すだけなのだが。 ダイニングテーブルに隣同士になって座り、タッパーに入れられた状態のままの料理を二人で仲良くつつく。 美紅としてはいつも通りの、何の変哲もない普通の料理なのだが、 「美味い!」 一口食べるごとに感動している右京を見ているのは、楽しかった。 「右京くんって、本当に美味しそうに食べるよね」 美紅が思わずそう呟くと、 「うん? まぁ、料理が美味いのもあるけど……それを美紅と一緒に食べると余計に楽しくて美味い」 右京は幸せそうにふわりと微笑む。 「!」 この二日間で彼の不機嫌そうな表情を何度も見ていた美紅は、その笑顔にドキッとする。 よくよく思い返してみれば――今まで、彼が甘い笑顔を向けていたのは、美紅に対してだけだったのに。 何をそんなに不安がることがあったのだろう、と今の彼を見ていて思うほど。 そんな風に少しだけ物思いにふけっていると、 「美紅」 右京に呼ばれ、顔を上げる。 その瞬間、 「……!」 何の予告も前触れもなしに優しく触れ合った唇に、美紅は驚きすぎて何も言えず。 「美紅の唇が、一番美味い」 右京の笑顔がより一層甘くなり、目眩(めまい)がするほどに色気が増したように見えるのは―― 美紅の気のせいだと思いたい。
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