confession

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 信也、加奈子。結婚おめでとう。二人が幸せになってくれてとても嬉しいです。  加奈子のお腹には新しい命も宿ってるんだよね。合わせておめでとうと言わせてね。  今日はどうしても結婚式の会場に行けなくてビデオメッセージであいさつになったことを許してください。  お詫びと言ってはなんですけど、私から二人に告白したいことがあります。  告白っていうとなんだか大仰になっちゃうね。そうだな。結婚式の余興の一つだと思って聞いてくれればいいと思います。  そうだな。今から私は二人にクイズを出そうと思います。  私が今から話すことの中に一つ嘘があります。それが何か当ててみてね。二人には簡単すぎる問題かもしれないけど。  私と信也と加奈子は子供のころの幼馴染だったよね。初めて会ったのははっきり覚えてないけど幼稚園の時にはもう一緒にいたと思う。それから小学校も中学校も高校も合わせたわけじゃないのに一緒だったね。  子供のころはいつも一緒に遊んでいた。私はお転婆だったから信也が男の子たちのグループで遊んでいる時も一緒になって遊びまわっていた。加奈子はちょっと辛そうだったけど、三人一緒にいるのはとても楽しかったよね。  小学校を卒業して中学の時だったかな。三人で遊ばなくなったのは。信也は男の子たちのグループで遊ぶことが多くなったし、私と加奈子は女の子のグループで遊ぶことが多くなった。あれは今思えば思春期だったんだろうね。異性というのを意識し始めたころだったから男の子から男の人になっていく信也と一緒にいるのが恥ずかしかったんだと思う。  高校になって三人が同じクラスになった時、私たちはまた一緒に遊ぶようになった。子供のころとまったく一緒とはいかなかったけど、やっぱり三人で遊ぶのは楽しかったよ。異性だからと言って恥ずかしがる年齢は過ぎていて、そんな中で男女がずっと一緒にいたんだから、恋愛関係になるのは自然なことだったと思うよ。  信也は知ってたかな。私も加奈子も初恋の人は信也だったんだよ。高校生の時信也と私は付き合ったけど、信也が初めての恋人だったんだよ。結局すぐに別れちゃったけど。まだ、二人とも子供だったんだと思う。  私は信也と別れた後、いろんな人と付き合っては分かれてを繰り返したけれど、加奈子はずっと信也一筋だったんだよ。そんな子を奥さんにもらうんだから果報者だね。  信也と別れてからも二人とはずっと友達だったよね。高校卒業して大学は別々になっちゃったけど、それでもずっと友達としてやっていけると思ってたんだよ。  ……そう思っていたのは私だけだったみたいだけど。  大学生になって最初の夏休みだったかな。信也の一人暮らしのアパートに深夜に呼び出されたんだよね。あ、信也と深夜をかけた駄洒落じゃないよ。  信也の部屋には信也以外に知らない男の人がたくさんいた。これ一体何? って聞いても信也は答えてくれなくてにやにやと笑ってただけだった。  そこからは。言う必要はないかな。さすがに私も口にするのは憚られるんだ。でも、想像通りの事が起こったよ。私の尊厳と自尊心はそこで粉々に砕かれた。どれだけ止めてと私が叫んでも誰も止めてくれなかった。  私、信也に何度も助けてって叫んだのに、信也は私を助けてくれるどころか私に圧し掛かってきた。私はそこで考えるのを止めたんだ。ただ、早く終わることだけを願ってた。  どれぐらいの時間経ったのか分からなかったけど、気が付いたら男たちはいなくなっていた。終わったんだと思った時、ほっとしたと同時に死にたい気持ちになったよ。でも、とにもかくにも解放されるんだと思った。でも、そんなことはなかった。むしろ地獄はここからだった。  私は投げつけられた服を着て部屋から逃げるように出ていこうとした時に、信也は私にスマホを見せながら言ったよね。今日の事を誰かにいったらばら撒くからって。死んだ魚のようにもてあそばれている私の姿を見せながら。  それからの日々は本当に地獄だった。定期的に呼び出されては私は繰り返し襲われた。信也は本当にどういう気持ちで私に向かって腰を振っていたのか聞きたいぐらいだよ。ああ。本当に答えなくていいよ。聞きたくもないから。  加奈子はあの時とても私の事を心配してくれてたよね。あれは本当にうれしかったよ。本当の事は言えなかったけど、それでも加奈子が気遣ってくれるその一言一言に本当に救われていたんだよ。だから、私は地獄の中でもまだ頑張って生きていけたんだよ。  本当にありがとう。  大学さえ卒業してしまえば私は逃げられると思っていた。卒業と同時に遠い場所に逃げるつもりだったから。でも、そんなことは許されなかった。私は信也の父親の会社に信也のコネで入社させられてしまったから。  信也のご両親は本当に良い人なんだよ。どうしてこんな良い人たちから信也が生まれたのか不思議なぐらい。信也のご両親は本気で私が就職に困って頼ってきてくれたんだと思っていたんだと思う。私はそんな人たちの好意を足蹴にはできなかった。  社会人になっても私の地獄は続いた。相手の男は変わってもやっていることは変わらなかった。私の稼いだお金は信也に奪われ続けた。  ああ。信也のおじさん、おばさん。ごめんなさい。結局、こんな風に恩を仇で返してしまって。本当はこんなことはしたくなかった。お二人はいつも私に優しくしてくれて本当に感謝してます。こんな話を聞かされたらお二人は私のためには怒ってくれていると信じられます。でも、落ち着いてください。  信也は確かに私にとっては何度殺しても殺したりないぐらいの人間ですけど、お二人にとっては大事な子供だっていうのは分かっています。お二人には本当には申し訳ないですけれど、どうか最後まで聞いてほしいんです。  ああ。信也はたぶん今頃顔を真っ赤にしてこのメッセージを止めろと叫んでいる頃でしょうね。無理ですよ。このメッセージを流してもらうように頼んだのは私の友達です。高校の時にできた私が本当に信頼できる友人なんです。本当はもっと早く相談するべきだった。ごめんね。  このメッセージが流れている時、私はもう死んでるでしょう。だから、私に何かをしようとしても無理だよ。信也。私はこの世界に未練がないからこのメッセージを残したらこの世からいなくなります。友人にこのメッセージが届いた時には私はもう死んでいます。その覚悟を彼女はきっとわかってくれる。それぐらいの覚悟で今このメッセージを流してるんだよ。だから、止めるなんてことは絶対にないよ。  どうして、こんなメッセージを作ったのか。その理由が知りたいかな? どうして今頃になって。そう信也は思っていると思います。もちろん理由はあるよ。結婚式で親戚や会社の人たちが集まっている時に信也のやってきたことをバラしたらダメージが大きいだろうっていうのはもちろんあるんだけど、私がこのメッセージを残そうと考えた理由はもちろんあるんだよ。  私はずっと地獄の底にいると思って生きてた。でもね。私は知っちゃたんだよ。  地獄に底なんてないんだって。  私を最初に騙したあの時、信也のアパートに集まっていた男の人たち。信也はほとんど初対面の男の人たちだったでしょ。サークルのOBって名乗ってたから。あれ、違うんだよ。  あれね。加奈子の友達だったんだよ。私を襲うっていう計画を立てたのは加奈子だったんだ。信也は私と別れたあともずっと私の事を引きずってたみたいだね。どれだけ献身的に尽くしてもまったく信也が振り向いてくれないのは私がいるせいだと思ってたみたい。加奈子にとって私はずっと目の上のたんこぶだったんだね。  だから、加奈子は私を引きずり落とすことにした。私の尊厳を壊して、信也の手に堕とす。それだけで信也の中の私の価値は暴落するってわかってたんだろうね。手に入らないからこそ憧れるんだから。手に入ってしまって、手にはいってしまったものが汚れていたらそんなものに価値を見出せないもんね。  そのことを知ったのはつい最近。偶然、加奈子があの時私を襲った男と一緒に歩いている時を見たから。男が一人になった時、なりふり構わずに刃物を持って脅したら簡単にあの男は教えてくれたよ。  ねぇ。私、加奈子に聞きたかったんだ。地獄に私にどういう気持ちで優しい言葉をかけていたのか。別に答えなくてもいいけどね。興味はないから。  信也は知らなかったでしょ。自分が加奈子の手のひらの上で転がされてたってこと。プライドの高い信也は耐えられるかな。  ふふ。  もうひとつ。教えてあげるよ。加奈子のお腹の中にいる子供。  信也の子供じゃないよ。  さて、これで大体伝えたいことは言えたかな。私が最初に言ったこと覚えてるかな。  これはクイズだって。問題は今話した中で一つだけ嘘がある。  その嘘はどれでしょうって言う問題。  信也が私を地獄に堕としたこと?  それを計画したのが加奈子っていうこと?  加奈子のお腹にいる子供が信也の子供じゃないってこと?  どれだと思う?  正解はね。どれでもないよ。  正解は。  。  
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