春を呼ぶために

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「あなたも魔法は使える?」 「?使えるけど」 「みせてほしい、な。わたし、キラキラしたものが好きなの。無い?」 「まあ…ここまで色々聞かせて貰ったし、空気中の魔素が少ないここならなんとかなる…かな」 威力調整と増幅の魔力式が組み込まれている杖は隣に置いておく。 キラキラしたもの…だから、光、かな。あと馴染み深いものの方がわかりやすいだろうから…蝶々? 右手を持ち上げて光を集める。誰でも少し練習すれば扱うことのできる光で照らす魔法。それを蝶々の形にしてひとつ、二つと周りに浮かべる。 ついでに羽も動かそう!面倒だけど。 体外魔術の操作はよく魔法の矢の手動追尾によく使われるけどとにかく大変。 私とタルマの周りを飛び交う蝶々に赤い目が見開かれる。 「わぁ…きれい……」 うん。その言葉が聞けただけで満足かな。 結局その日はタルマに色々な魅せる魔法(何も効果はないけれど見た目はすごくいい!)を見せて終わった。 ここまでいろいろな話を聞いて仮説を立てる。 今手元にある植物の種。異界植生保護区画に生えている多数の植物達は、違う世界から来た。 ある話を聞いたことがある。 多神を崇めるこの世界で唯一、ただ一つを司る時の女神(クロノス)を信仰する高位神官が、まるで別世界を見ているようだと夢の内容を綴った日記。 異界というのはまさに、別世界からの来訪だ。 それは私たちのように魔法を使う世界から、人間のいない世界、大地のない世界、魔法のない世界と様々。 まるで空想のようだと時の女神を空想の女神と称する人も多いほど。 ちなみにその神官の日記は公開されていて、数多の小説家たちのバイブル扱いされている。題材にはぴったりだからねー。 大地がない場所に芽は咲かず、水がない場所に葉は茂らず、光のない場所に花は咲かず。 植物と生命の神の聖句の一節だけれど、この世界の植物と似たような形をしている植物にも当てはまるはず。 だってこんなにも形状が似ているんだもの。 聞き覚えのない種でも、同じ。ひとつ命を摘み取り種を二つに割ると、そこには見覚えのある栄養が詰まった種があった。 水と土と空気は必要。けれども魔素は?魔力は? 必要なのだろうか。 「…でもねぇ、そこがいちばんの問題なんだよね」 この世界に魔素がない物なんてない。魔素が勝手になくなってゆく病気はあっても、魔素がない状態で生きているものは無いのが常識としてある。 瓶をいくつも並べて、中に入っている植物を見て調べる。 一部分を切り取って魔力を込めると、さらさらと崩れていく。まるで器が合わないかのように。 「魔力ってどうやって取るの?それもずっと持続してなんて」 ふと思い出すのは一つだけ咲いているサクラの木。木から切り離して見た枝は他の咲かずの木と同じものだった。さらさらとした粉へ。 「あれ、全てを掘り返すなんて怒られるかな」
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