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「ええと…これとこれはまとめて置いておくとして…って、これは王家の紋じゃない」
マシェルが運んできた手紙は6つ。
飲みかけだったハーブティーを口にしながらテーブルに手紙を広げ宛先と送り主を確かめていく。
妖精からの手紙は厄介そうなので後回しに。
3つは最寄りの街のハーブ園の管理者からと、薬師、魔法使いギルドから。
最後の1つは私が居を構えている国であるフロイデン王国からのものだった。
にしても、いつもは1、2通届けば多いぐらいなのに今日は特に多い。
「(国からだなんて…何か催し事でもあったかしら。特に思い当たることはないんだけれど…)」
ペーパーナイフを呼び出して紋が割れないように開封する。
王家の手紙だからかやたらと高そうな金と銀の装飾が施された紙に、魔力での書き換えができない魔法インクで書かれていたのは“第二王子殿下の5歳の誕生祝いのパーティーのお誘い“と、”祝福の依頼”だった。
「5歳…。もうそんなに経った?」
ついこの前、第一王子殿下に祝福を渡したばかりだった気がするけれど、と頭の中で数えると確かに2度季節は過ぎている。
あまり家から出ないせいでその辺りがぼんやりしてしまっていた。
第一王子殿下と第二王子殿下は2歳差のはず。
第一王子殿下の時も呼んだから、今回もお願いしようとのことだろう。
ましてやフロイデン王国に根付いている賢者は自分ただ1人。
「人前に出るの、好きじゃないんだけどな…で、こっちは……」
ぺりぺりと封を開けて手紙を流し読みする。
ハーブ園からはいつも売っているハーブ用の肥料の相談、薬師ギルドからは薬の作成依頼、魔法使いギルドからは年に一度の春歌祭のお誘いだった。
春歌祭については毎年スルーしているけどね。魔法について楽しく話すのは好きだけれど、歌を歌うのも苦手よ…。
それで最後に残ったのが、
「まさか、生きているうちにこの名前を見ることになるとは思っても見なかった。御伽話じゃないのね」
巻かれた羊皮紙に結び付けられた紐。
その繋ぎ目に挟めるようにして結んである幅ひろめのリボンには、今はほとんど見ることのない妖精文字で私の名前と、御伽話にある妖精女王の名前が書かれていたのだから。
妖精と住む世界は、この世界と重なるように存在しているらしい。
幼児向けの絵本には『妖精と精霊はいつもあなた達の隣にいるから仲良くしましょう』と言う内容が柔らかく書かれているものがある。
私も子供の頃に読んだことがあるし、精霊には助けてもらったことがあるから精霊がいるのはわかっていたけれど…妖精は会ったことがない。
私の持つ蔵書に彼ら彼女らの生きる世界、精霊界についてこと細かく書かれている本があって、王と女王の2人で治められていると。
その女王と名前と同じだった。
でもマシェルは久しぶりと言っていたから、種族的なものや会える環境があるかもしれない。
それは置いておいて、今気にするのは目の前に広げてある手紙である。
「……見た目は落書きだけれど、どう見ても魔法陣…」
羊皮紙の最後に描かれていたのは落書きのような魔法陣、だけれど途中が欠けているからか不完全。
受け取った時に感じた気配はこれのことだろう。
触れたら思わず直してしまいそう。
「…これは後、後にしましょう!日にちも時間も書いていないことだし、まずは他のやるべき事をやってからするべきよ」
羊皮紙を元の状態に巻き戻してから鳥の使役獣を呼び出す。
それぞれの手紙の送り主に向けての返事を手早く書いて持たせると、窓を開けて送り出した。
私は気合を入れるためぬパチリと頬を手で挟んだ。
「…よし、準備をしなくちゃね」
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