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旅立ちのその前に
魔法使いギルドは手紙の返事だけで大丈夫。
春歌祭を私が欠席することはいつものことだから、いつも通りに処理してくれると思う。
薬師ギルドからの薬の作成依頼は、複合病の治療薬だった。
確か、これは作成できる人がいないのではなく、作成するための材料が無いのかな?ユラギナの葉は保存が効かないから。
ユラギナの葉はこの森の奥に生えるスノークウッドの根本に少し生えていたはず、あとは朝霧の雫…は家に蓄えがある。
あとでユラギナの葉を取りに行こう。
飲み終わったカップを洗って戸棚に戻してから、外に出るためにローブを取り出す。
家の中は暖かいからいつも通りの服装をしてしまうけれど外は寒い。
くるりと首元から回してボタンで留めて、ファー付きのフードを被ればあとは大丈夫!暖かい温度を維持してくれる優れものだ。
本が積み重なっている間に立てかけていた杖を手に外へと出ると、さっき見た時よりも雪が降る量が増えていた。
これは早めに行かないと…。
家の脇にこんもりと山を作っている肥料から数種類をとりわけ袋へと詰め込み、亜空間へとしまう。
相談だから必要ないかもしれないけれど、春になったらいつも買いに来るから少し早くても問題ないよね。
家の前に広めに作ってある広場の地面に杖を打ちつける。
光が陣を描いていく。呼び出すのは、血の契約を交わした森竜。簡易使役とは違って対等な契約の上に成り立つ私の相棒。
「おいで、リューズ!」
『クルアアァァァ!!』
私の背の二倍ぐらいあるところから白緑の鱗で覆われた長い首を寄せてくるから撫でる。
幼竜の時に出会ったからか甘え癖がなかなか抜けないのはわかるけれど、体の至る所に生えている苔を擦り付けてくるのはどうにかならないものかな…?
いえ、この苔も薬効があるから喜んで取るけど。
服についた苔を小瓶に入れつつ、リューズが好きな山桃を取り出してほおると美味しそうに頬張る。
「うん、リューズも元気そうね。今日は麓のハーブ園に行きたいから、乗せてもらえる?いつもの所よ」
『クアアァ』
私の言葉は契約で通じている。
嬉しそうに鳴いているのは、あのハーブ園に生えている果実が目当てなのはわかっているけど、器用に空気と鳴き声だけで幸せを表現するね…。
私が乗りやすいように地に伏せるリューズの肩を軽く叩くと、首の根本と翼の間に跨った。
私が乗ったのを感じてもたげていた首をあげ、空を見上げる。
「じゃあ、行こう!」
『クルア!』
開けた森を数度の助走をつけてから飛び立つ。吹き付ける風は魔法で防いで雪の降る空を駆けていった。
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