神様の愛人

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「はぁぁー…」  管理室のドアを閉め、盛大に溜息を吐く。月末恒例のお小言であるが、今月は小口の依頼が多かったのでちょっと長かった。 「しんどー…」 「終わった?ご苦労様」  肩を落とす私に声をかけてきたのは、我がギルドのマスター、シャッチョさん。 「いやぁ、悪いねいつも」 「いいですよ別に。それよりアルハラさんの案なんですが、みんなでちゃんとやれば大真面目に給料もう少し何とかなりますよ?」 「うんー、まぁ今度きくね」  これである。そもそもギルドマスターが率先して小銭をちょろまかす。だから私の給料も上がらないのだ。 「もー、来月こそご自身でお願いします」  口を尖らせる私に、ギルドマスターは「えー?」と軽薄そうな頬を更に緩ませて、 「いーのーぉ?」 イヤな事を言う。 「なんですか?いいですよ別に…」 「いやぁ、ここんとこ大口の依頼もないから、カンちゃんとクエスト一緒にならないでしょー?」  とんだゲスである。  私のランクは低く、魔法による治癒能力もそれ程高くはない。名目上は『聖教者』だが、仕事はほぼ採集。対するアルハラさんは受けられるクエストがすこぶる限定的なので、いう通りクエストで一緒になる機会は少ない。  しかしだから、どうした? 「いや、寂しいかなってさぁ?」 「気持ち悪い邪推しないで下さい。アルハラさん既婚者ですよ?」 「それ元の世界の話でしょ?」  アルハラさんは、異世界からの転生者である。  なんでも元は『さらりいまん』という職に着いていて、今と同様ギルドの財政管理をしていたらしい。  肝臓の病気で死んでしまったそうだ。  酒癖がものすごく悪くて、それを面白がった元世界のギルドメンバーに、よく酒宴に招かれていたらしい。断われないお酒を毎晩のように飲まされて、身体がボロボロになってもやむなく飲酒を繰り返す日々。  晩まで仕事、朝までお酒。  その生活を20年近く続けた彼は、ある朝、ギルドの共用仮眠室に向かう途中で意識を失う。  気が付いた時には、真っ白な部屋で立っていたそうだ。  目の前には性別不明の美少年。 『私様を楽しませてくれたら、望む時間に戻してあげるよ』  使命とスキルを授けられて、この世界に送られてきたとの事。 「歴史の転換期には、転生者を自称する者が現れるそうです」 「逆だよヘティちゃん。転生者が送られてくるから歴史が動くの」 「まあ、そうなんでしょうか。あの、信じてないんですか?アルハラさんの話」 「うーん、信じたくないっていう感じかな。おじさん今の生活気に入ってるのよ。でも……あのスキルがなぁ」 「そうですね」  転生者は独自のスキルを身につけている事が多いと聞く。アルハラさんも唯一無二のスキルを持っていて、それが彼の前世の信憑性を担保している。 「さて、引き止めちゃってたらごめんね」 「あ、いえ…」  ギルドマスターを見送ろうと居住まいを正す。 「……………」 「……………?」 「えっと、カンちゃんに話があって…」 「あ、あー!すいません!すいません!」  慌ててドアの前から退く。ギルドマスターがドアを数度ノックした後「かーんちゃーん」と相貌を崩しながら入室していった。 「私ただの生贄じゃないですか…」  アルハラさんに話があったので、先に私を送りつけご機嫌をとっていたのだ。ホント、ゲスである。  しかし、シャッチョさんがアルハラさんの部屋に出向くという事は、だ。 「ほ、本当ですか!?」   大口の依頼である。 「私に助言して欲しいって!?よそ様の財政管理を!?すごい!素晴らしい!そういう仕事ですよ私が欲していたのは!最高じゃないですか!是非お任せ下さい!」  そんな訳ないだろう。一体何度同じ手に引っかかるのか。  アルハラさんが連れ出されるという事は、おそらく要人警護か、暴徒の鎮圧か。  そういえば近日、隣国との講和条約が結ばれると聞いた。  民間である私達みたいなのが引っ張り出されるという事は、影武者の護衛とか多分そういうのだろう。  まあいい、トラブル大いに結構。  次こそは、アルハラさんが上手く死んでくれるかも知れない。
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