神様の愛人

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「ホラ、ここ、逆さ文字」  移動中、馬車の中にも関わらず荷台の上に小さな黒板を置いて、チョークで何やらガリガリとやっている二人。 「なんでそんなやたらに句読点を打つ?貴方単語毎に会話区切る人ですか?ホラここも、スペル間違ってる」  ネチネチと添削しているのはアルハラさん。出発の日に真実を告げられ、散々ごねて逃げ出そうとしていたため何と手錠を掛けられている。綱を持っているのは私、本当に勘弁して欲しい。 「うっせぇなあ。シャッチョだけ誤魔化せりゃどうでもいーんだっつーの」  ブチブチ文句を垂れながら苛立つように頭を掻いてるのはランヂさん。白銀の毛並みが美しい狼種の獣人である。 「だいたい冒険者に学なんかいらねぇんだよ」 「報告書。貴方キヤキャさんにいつも押し付けてますよね?」 「はぁ?知らねぇなぁ」  キヤキャちゃんは猫種の獣人で、たれ耳がキュートなマスコットキャラクター的存在。二人は同じ孤児院の出身である。  ランヂさんの尊大な物言いに、アルハラさんの目が尖る。 「あと領収書の偽造。貴方それ犯罪ですよ?」 「知らねぇっつってんだろジジイ。食費くらい経費で落とせや」 「語るに落ちてますねえ。お弁当は出しているでしょう。他所で買ったものまでは知りませんよ」 「細けえジジイだな、テメェも殺すぞ?」 「どうぞ?神様を楽しませるくらいの殺し方が貴方に出来るならね」 「ま、まーまー」  どんどん喧嘩腰になっていく二人を、なんとか宥めようとする私。 「あ?クソザコがしゃしゃってんじゃねぇぞコラ」  うんうん、元気元気。 「ヘティさんもこの前嫌がるキヤキャさんを『かわいい』とかいって撫で回してましたね?同性だからって相手の容姿についてあれこれ評価を付けるのは問題ですよ?貴女も見た目で評価されて嫌な思いをしたはずです、何故同じ事をするのか私には理解出来ない」  アルハラさんは偶に私をジットリみてるけどな。気付いてないとでも思ってるのか。 「あ?チビをチビっつってなんか悪ぃんか?」 「話にならない。貴方本当に成人ですか?」 「ぐだくだうるせぇなぁ。おうジジイ、テメェみんなから嫌われてんぞ?」 「大変結構、私も皆さんの事が嫌いです」 「くせものー!!くせものでたにゃー!!」  馬車の天幕がボフボフならされ、キヤキャちゃんが上から顔を覗かせる。 「やろーどもー!であえであえー!」 「それ止めろっつってんだろ!頭悪ぃんか!」 「キヤキャさん文字書けますけどね」  アルハラさんはサラッと嫌味を言って立ち上がり、 「じゃあ精々頑張って下さい」 荷台の奥に身を隠した。
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