神様の愛人

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 先頭を走っていた馬の足が切られている。これから戦闘が始まる事を考えると、あの子はそのまま今夜のオカズだろう。  現れたのは百にも届くというような人の群れ。多分森の中にも潜んでいる。  いかにも野盗でございという格好をしているが、武器を構える姿は明らかに騎士のそれ。つまり手強いという事だ。 「その者は重税により悪戯に民を苦しめ!罪を犯さねば明日にも死するというまでに追い詰めた暗君の!無知蒙昧極まる命にただ首を縦に振るだけの木偶人形である!民が窃盗を犯し地獄に堕ちるその罪は!全て愚鈍なる王とその臣下が故であるによって!お畏れながら我々『蝉の団』が天に代わりこれより誅するものである!講和に遣わされた交渉者をここに出せ!庇うものは同罪と見なす!」  よくいう。野盗がそんな口きいてたまるか。  グルリとこちらを囲む輪をジリジリと狭めてきている。何とも分かり易い交渉の決裂待ちである。 「シャッチョさん」 「おうヘティちゃん、カンちゃんは?」 「荷台の奥で震えてます」 「何やってんだ、手錠つけてるだろ。早く連れてこい」 「厳しいです?」 「ありゃどっかの騎士団だ、講和潰したいんだろ」 「やっぱそーですか。じゃーいってきます」 「急げ。あんま時間ないぞ」  荷台に戻り、アルハラさんに声をかける。 「出番ですよー?」 「そもそも私は行かないっていったんだなんでいつもいつも拘束されるんだおかしいだろやばいやばい死ぬ死ぬ絶対に死ぬ…」 「あーるはらさーん」 「今度こそおしまいだきっとすごく痛い事されて殺されるんだどうしてこうなるんだおかしいおかしい死ぬ死ぬ死ぬ…」  何ともまあ酷い様だ。先程までの偉そうなインテリ気取りはどこへいってしまったのか。 「ねー、みんな死んじゃいますよー?」 「うるさい!クソ!クソ!オマエ等強いんだろ!?何とかしろよ!給料分くらい働け!」 「私は報告書ちゃんとやってるじゃないですかー」 「皆に伝えろって指示きいてないだろ!オマエだって同じだ!誰も私のいう事を聞かない!挙げ句死ねってのか!私を巻き込むな!」  隅っこでがたがた震えながら喚き散らすアルハラさん。 「……あーそーですか…」  こりゃダメだ、早々に説得を諦める。 「じゃー全裸になって命乞いしてきますから。私が酷い目に遭わされるとこ、ちゃんとみといて下さいね」 「え、ま、ち、ちょっと…」 「さようなら」  何か言おうとしているのを無視して、荷台を降りる。そのまま真っ直ぐ向かうのは、先程名乗りをあげていた野盗のところ。途中シャッチョさんがこちらを見て苦笑いしていたのが実に腹立たしい。 「失礼しまーす」 「な、何だ貴殿は…」 「ちょ、おい…」  急に割って入って来た小娘に、場の空気が凍り付く中、 「ヘティ!脱ぎます!」 大きな声でそう叫び、緩慢な動きで服を脱ぎはじめる。 「くっころせーくっころせー…」  野盗共から「気が触れたのか?」などと、大分失礼な声が上がるが堪えるしかない。何にせよ戦闘開始は先延ばしになった、良い流れである。 「くっころせーくっころせー…」  チンタラ脱いでいたつもりであるが、あっという間に下着姿になってしまった。あえて残しておいた僧帽をゆるりと脱ぐと、周囲からゴクリと唾を飲む音がする。 「あー!下着だなー!恥ずかしいなー!下から脱ごうかなー!下着だけに!」  うーん、出てこないな。 「はーい!パンツ脱ぎまーす!」  年齢制限か。止む方なし。  私がゆっくりと腰の紐を解こうとした時、 「ぉまたせ致しましたあ!!」 何とも形容し難い空気を割くように、馬鹿に明るい声が響き渡る。 「不肖在原!乾杯の挨拶を務めさせて頂きま↓あすっ↑↑」  声の主は、繋がれた両の手で酒瓶を掲げへらへら笑う、誰の目にも終わってる酔っ払いだった。
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