神様の愛人

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― えー続きましてぇ、孫と人生ゲームをしていたら、子供が生まれ過ぎて車に乗り切らなくなった時の中島弘邦のモ…  神様から贈られた、アルハラさんのスキル。 ― ご覧下さい社長!弊社きっての筋肉自慢!中島が北海道支社より駆けつけてくれました!大学の伝統を築き上げた偉大なる先輩に是非ご挨拶をと!本日の中島、仕上がって御座います!さあ!中島君による申央節で…  その名も『超適合(酒)(カエッテキタヨッパライ)』。  アルハラさんが飲酒をすると、相手はのまれてしまう。  奮い立つ闘志が、のまれてしまう。  向けていた敵意が、のまれてしまう。  次の行動を起こす気持ちすら、のまれてしまう。 ― さどーぞどーぞ!ここね!家系なんですけどアッサリで頼むと明日胃に来ないんですよ!深夜帯は油を変えてるんですって…  訳の分らない何かにのまれ、野盗共や、こちらの騎士すらも、半狂乱になって1人騒いでいる哀れな中年男性を、ただ呆然と眺めている。   ― いきましょういきましょう!どんどんいきましょう!どこまででもいきましょう!    うひゃひゃひゃひゃ!と、けたたましい笑い声をあげるアルハラさん。その口からは飲んだ酒が涎と共に垂れ、ひん剥いた白目からは涙が溢れている。  あれはスキルに因るものではなく、飲酒により過去の記憶がフラッシュバックしているだけ。冗談抜きでただの痴態である。 ― え?一番かわいいキン○マの使い方、ご存知ないんです…  もう誰か殺してやれよ。 「おーいヘティちゃん」  脱いだ服を再び着終えたところで、シャッチョさんから声がかかる。 「盗賊縛るのやって」  アルハラさんのスキルはギルドメンバーには効かない、ズルい。 「あ、はい。え?連れて行くんですか?」 「5人くらい?ヘティちゃん一応聖職者だし、そっち担当でいいから」 ― 篠原様、仰る通りです。弊社へのクエスト依頼は他のギルドより…  指示通り、なんとなく偉そうな順に盗賊を捕縛し、身体を検めながらもアルハラさんの話に耳をそばだてる。内容が徐々に混濁してきた。 ― しかしみてください!あの狼種の男!彼です!口は悪いんですが実に優しい男でしてね?給料どころか弁当まで孤児院に持ってってるんですよ。ええ、私、知ってるんです。彼も孤児でして、本当に苦労してき… 「おい!そのジジイの口を塞げ!ぶっ殺すぞ!」  野盗共をアレしながらランヂさんが叫ぶ。どうしたどうした?ご自慢の銀髪まで紅く染まるようではないか。 ― 仕事仕事の一本槍だったんですが、最近勉強を教えろなんて、そんな事言うんですよ。いい男なんです。ええ、教えてあげたいんですって。子供達に… 「もおおおおおお!!!!」  とうとうランヂさんが使い物にならなくなった。 ― でね?側にいる猫種の彼女。あの娘も実に素晴らしい… 「にゃっ!?アルハラにゃにを!」  次はキヤキャちゃんである。 ― マスコットなんて不名誉な誹りを受けていますがね?彼女の魅力は違うんです。最近Bランクに上がりましてね?本当に生真面目でそつがない。クエストに同行する全員の事を常に気にかけていて。私ね?私ね?聞いて下さい。私、彼女こそが、ゆくゆくは我がギルドの中核を… 「やめて!もうキヤキャお嫁にいけにゃい!」  こうして、アルハラさんの『あるはら』によって次々とギルドメンバー達がダメになっていく。  因みにその評価は割と当てになるらしく、彼の意識が混濁しはじめると、シャッチョさんはメモを取り始める。 「おーい、ヘティちゃーん」  ギルドメンバーの査定が済んだ辺りで、シャッチョさんから再び声をかけられた。 「もう大体済んだから、カンちゃん休ませていいよ」 「いいんじゃないですか?寝るまで飲ませてあげれば」 「そのまま永遠に寝ちゃうから」  私としてはその方が良いのだが、まあ、その事を悟られる訳にもいかない。 「はぁ……いってきます」  仕方なく、私はアルハラさんの元へと向かった。
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