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序章
昨日から降り続いていた雪はやみ、今日は、藤島家の娘二人の門出を祝うかのように、晴天が広がっている。
仏蘭西の宮殿の一室を思わせるような、豪奢な客間の長椅子に座る少女は、藤島家の長女、毬江。薔薇色の頬をした華やかな顔立ちの少女だが、白無垢が、より一層、今日の彼女を輝かせていた。
毬江の隣で、母親の喜代が、しきりに、
「綺麗よ、毬江。あなたの美しさを見たら、女神様だって嫉妬するわ」
と、娘を称えている。二人のそばに立つ父親、藤島政雄も、妻の言葉に「うんうん」と頷いた。
一方、部屋の隅で一人ぽつんと椅子に座っている少女も、白無垢を纏っている。藤島家の次女、雪子だった。毬江に比べて顔色が悪く、痩せぎすで、貧相な容姿をしている。俯き、膝の上で握ったこぶしを、じっと見つめていた。
「こんなに美しい花嫁なのですもの。河内様もきっと、お喜びになるわ」
喜代の言葉に、毬江は「当然」とばかりに、自信に溢れた表情で微笑んだ。
喜代も毬江も、雪子には一瞥もくれない。
雪子は、喜代の実の娘ではない。政雄の愛人の娘で、七年程前に愛人が亡くなった時、政雄が藤島家に迎え入れたのだ。喜代にとっては、夫を奪おうとした、憎い女の娘である。政雄から「母親として面倒を見てやってくれ」と頼まれても、可愛がる気持ちには、到底なれなかった。
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