3. (♡)

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3. (♡)

 時計の長針が1周終えると、ミントは泣くのに飽きたらしい。 「これ、どうしたらいいと思う?」  向こうのモニター画面が角度を変えられ、フレームアウトしたミントの代わりに台所が映った。ごくシンプルな単身者用アパートのキッチン、鍋とやかんを置けば満席のコンロの横、大きなビニール袋が主張して座っている。 「お前、もしかしてそれって」 「そう。本当は、昨日の夜作るつもりだったんだ」  ガサガサとビニールのこすれる音を鳴らして取り出し、並べていく。卵、板チョコレートが何枚か、小麦粉、砂糖、バター……、どう考えても田中だか山田だか用に作る予定だった材料だ。 「そんなの、それぞれ別に食えばいいじゃん」 「うん、まぁそうなんだけど、これがさ」  バツ悪そうにミントがこちらに見えるように掲げる両手には、本人の心臓8個分くらいにデカいハート型だった。 「これまたすげぇな」 「……あげなくて正解だったかも。引くよね、これは」  砂糖なしのココアを飲んだみたいに眉をしかめ、ミントの顔がまた曇り始める。すると、俺の減らず口がまたもや稼働し始めた。 「改めて思うけど、現代日本のバレンタインってもはや形骸化してるよな」 「え、急に何? 形骸化?」 「好きな相手に作るのは本分だからいいとして、義理チョコに友チョコ、しまいには自分チョコまであるんだろ? んなの、自分がチョコ食べたいだけの大義名分だろうが、ヴァレンティヌスの本意はどこへ行った」 「ちょっと待ってヴァレンティヌスって誰?!」  稽古中にカットを入れる勢いのツッコミ、声に明るさが戻るのを確認すると、構わず俺は続ける。
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