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ミントとは高校の演劇部からの腐れ縁だ。
ちなみにミントは部内での芸名で、本名は水戸さやか、「水戸→みと→みんと」と安易な命名だ。俺のナオトは本名そのまま直人で、名付け親の先輩いわく「素直じゃないから名前負けすんなよ」だそうだ。ほっとけ。
1年の頃はお互い猫を被っていたが、2年に上がった同時に化けの皮がはがれていった。ミントは演出担当に立候補し、夏の全国大会を突破すべく30名弱の大所帯を引っ張る「縁の下の力持ち」となった。
「こぉらぁ、そこ! 腹から声出す!!」
ミントは小学校高学年の女子がそのまま大きくなった見た目ながら、ゴジラ顔負けでキャスト達に怒号を浴びせていた。
一方の俺は、舞台上で好き放題暴れていた。
5月下旬、夏の大会用の戯曲が決まると、ミント主体で審査するオーディション前に呼び出された。
「お願い、ナオトにしか出来ない役だから!」
黒幕役を言い渡された。それも、救いようのない悪役だった。
「極道ヅラで悪かったな」
「役立つ時が来たじゃん」
オラオラ強面の外見を持つ父親と極妻な母親という平凡家庭で生まれた俺は、17年間カツアゲに遭ったことがなかった(遭っても俺の顔を見た途端、相手が勝手に逃げる)。ちなみに23歳の現在も記録進行中だ。
その恵まれた俺の容姿を指し、嬉しそうに台本を渡してきたミントは『私ね、高校入ったら演劇やるって決めてたの!』と、自己紹介してきた時と同じように、頬を丸くしながら笑った。
「悪役やらせたら、ナオトが間違いなく地区ナンバーワンだよ!」
それはまるで雲ひとつない空の下、太陽の光をいっぱい吸い込んだ夏のひまわりに似ていた。
ミントの純粋な熱に煽られ、俺は負けじと挑発的な言葉を吐く。
「……いいぜ、暴れてやるよ」
「やった!」
「主役より人気のあるヴィランになればいいんだろ? 余裕だわ」
「期待しているからね!」
――なんて幸せそうな顔するんだよ。
夏の気配よりも早く、俺の胸は高気圧に煽られた。
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