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高校卒業後、それぞれ別の進路を歩き出したにも関わらず、腐れ縁は続いた。
新社会人になった今もこうして顔を突き合わせ、コロナ禍になってからはパソコン画面越しに酒を飲み交わし、「いい加減彼氏作れ」「そっちこそ同期の女の子とはどうなったの」と突きあう。慣れない仕事に部活後とは違う疲れでしんどいのに、気持ちだけは全国大会へ意気込んでいた頃と変わらない。
「あーあ……、彼氏出来ないまま23歳になっちゃったよ」
「前飲んだ時は、そいつと上手くいきそうって豪語していたのに」
地雷だったらしい。感情が顔に出やすいミントは、部活の話し合いで揉めるといつも両目を△にした。その目で睨みを効かせてくる。
それは半年前だった。
突然ミントが、佐藤くんだか田中くんだかこちらが覚える気もない平凡な名字の男を口にし始めた。
「もしかしたら好きな人が出来たかもしれない」
モシカシタラスキナヒトガデキタカモシレナイ。
突然のミントの告白に、俺の脳内言語野はすぐに機能しなかった。演劇に青春を捧げたミントは、大学の演劇サークルでも演技論を吠え続け、サークルメンバー達が感じていたであろう恐怖たるや同情に値した。色めいた話も、芝居上の人物=二次元に限られた。
そんなミントに? スキナヒトガデキタ?
「新しい推しでも出来たか」
「違う、会社の同期」
「それは実体があるのか」
「実体って何よ」
茶々を入れると、モニターの向こうでミントが俯いた。
「演劇関係なく、素敵だなって思ったの。……こんな気持ち、初めてなんだよ」
目を逸したミントの丸い頬がほんのりと赤く染まっていく。今まで見たことのない表情を、PCモニターの細かい画素で鮮やかに映していた。
「良かったじゃん」
渡された台本を読むみたいに、俺の口は自然と祝福していた。 知り合って8年、こんな日が来るとは思わなかった。
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