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「ナオト。今にも俺を刺してきそうに睨むのは、舞台だけにしてくれるかな?」  キャストだけで台詞合わせしている時だった。主役とヴィランが直接対決するクライマックスシーンの練習を終えた直後、ガキを嗜めるような穏やかな司の口ぶりに、俺はカチンと来た。 「目付きの悪さは生まれつきだよ、悪かったな」 「そうかな? 相手によっては優しい瞳をするよ、ナオトは」  くそったれ。誰のせいで告白できないと思ってんだ。それでも劇のストーリー同様、鋭く急所を刺された俺は喉の奥だけで言い返すしかなかった。  そうしてミントも俺も、自分の気持ちより全国大会を優先した。劇に全力を注ぎ込んだことを1ミリも後悔は無かった。     「また皆と会いたいね」 「そう言って、去年も集まれなかったけどな」  「こうして顔合わせてるのはナオトとばっか! どんだけ暇なんだよ私達」 「俺は暇じゃない。ミントに付き合ってやっているだけだろ」  今日も憎まれ役のヴィランが抜けないまま俺の口が裏返した言葉を吐いていると、回想シーンのように脳内に司が登場してくる。 『ミントは頑張り屋だからね。演出のプレッシャーも、ナオトと話しているので気が休まっているみたいだよ?』  こっちを見通したようなこと言いやがって、涼し気な声にますます腹が立つ。  そんなの、弱みに付け込んで言い寄っているだけだろうが。そんなのはフィクションの悪役だけで十分だ。
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