Episode1・ゼロス、はじめてのおつかい ~お静かに、これは尾行です。~

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「イスラの言っていたとおり本当に長閑な良い所ですね」  立ち寄った村も平和な村で人々は明るい顔をしていました。  そんな村を盗賊が狙っているなんて許せることではありません。 「あ、見つけました。こんな所にもあるんですね」  足元を見るとゼロスにお使いに頼んだ薬草が生えていました。  どこの山にも生息している薬草なだけあって少し探せばすぐに見つけることができます。 「ゼロスは上手く見つけてくれるといいのですが」  私は薬草を摘もうとしましたが、やっぱりやめておきましょう。  きっとゼロスも見つけて摘んできてくれるはずです。 『ブレイラ、やくそうみつけたー!』  薬草を摘んだゼロスは満面の笑顔を浮かべて私の所へ帰ってくる。  嬉しそうに私に抱きついて、大きな瞳で見上げてくるのです。 『ぼく、ちゃんとおつかいできたでしょ?』  誇らしげなゼロスを想像すると私の口元も綻んでいく。  もちろん少し心配ではありますが、ハウストが尾行してくれているのですから大丈夫です。  こうしてイスラが戻ってくるのを待っていると、ふと背後の茂みが揺れました。  イスラが戻ってきたのかと振り返りましたが。 「おっ、こんな所にお客さんだ」 「なんだ? えらく美人なお客さんじゃねぇか」  見慣れない男達でした。二人の男は私を見るとニヤニヤした笑みを浮かべて近づいてくる。  男達の不快な視線。嫌な予感に緊張を覚えました。 「あなた達、何者ですっ」  警戒しながらも睨みつける。  しかし男達は嘲笑うように近づいて来て、私の中で警鐘が鳴り響く。  関わってはいけない。囲まれてしまう前にここから逃げなければ。  私は咄嗟に身を翻してこの場から逃げようとしました。でも。 「おい、どこへ行くんだよ」 「逃げるなよ、まだ話しは終わってねぇだろ」 「痛いッ、離しなさい!」  腕を掴まれて強引に引き戻される。  二人の男は私の逃げ道を塞ぐように立って顔をにやけさせます。  明らかに私を馬鹿にしたそれに、「離しなさい!」と掴まれた腕を振り解きました。 「なんのつもりです!」 「なんのつもりだと? お高く留まりやがって、上等な服着てるじゃねぇか」 「高そうな服だな。どっかの奥方様か?」  男は笑いながら言うと私の服の裾を掴んで捲り上げようとする。  ――――パンッ! 「無礼ですよ! お詫びなさい!」  突然のことに男達は一瞬言葉を失くします。  でもそれは一瞬で、男達は今までニヤついていた顔に怒りを滲ませました。 「いい度胸してるじゃねぇかっ」 「こっちが優しくすればいい気になりやがって!」 「何が優しくですかっ。迷惑です!」  きっぱり言い返してやります。  男の逆鱗に触れたことは分かっていますが、この男達だって私の逆鱗に触れているのです。怯んでなんてあげません。  そんな私の態度に男達は目を据わらせる。 「なんだ、乱暴にされる方が好みかよ」 「ハハッ、そりゃいいな。いっそ身代金でも要求してやろうぜ」 「ば、馬鹿なことを言わな、ッ?! ぐッ……うぅっ!」  突然口を塞がれる。  身を捩って抵抗するも背後から羽交い絞めにされて逃げられない。 「うぐっ、うぅっ……!」 「暴れるなよ。悪いようにはしねぇよ」 「もしこいつが貴族なら、村から盗む金より稼げるかもな」 「っ?!」  男達の言葉にはっとする。  男達は今『村から盗む金』と言ったのです。  という事は、この男達が山に潜んでいるという盗賊! 「んーッ! んんーーッ!!」  私は激しく身を捩って抵抗しました。  冗談ではありません。まさか盗賊に出くわしたなんてっ!  必死に助けを呼ぼうとするも、口を塞がれていて上手く声が出ない。  そんな私を男達が嘲笑う。  私の抵抗などむなしく空回りし、無様にも盗賊のアジトへ連れて行かれてしまいました……。
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