210人が本棚に入れています
本棚に追加
「う、嘘だろ……」
ハウストは青褪める。
カエルを追いかけてゼロスが川に消えた。
このままでは危険だ。ハウストは手中に魔力を集中させる。
川の水を操ってゼロスを救出しようとしたのだ。だが。
――――ぷかぁ~。
ゼロスがぷかぁ~と浮いてきた。
「ふえぇ~。きもちい~」
ゼロスは鞄を腹で抱っこし、気持ち良さそうな顔で仰向けに浮いている。
その姿にハウストは脱力するも無事だったことにほっと安堵した。
早く川から連れ出そうと思ったが、気持ち良さそうに浮いているゼロスの姿に苦笑する。
特に危険な生物が棲んでいる様子もない穏やかな川だ。いつでも助けられるようにしながらも、しばらく浮いているゼロスを見守ることにしたが。
「ぼく、およいでる!」
ハウストはまたしてもぎょっとした。
違うっ、流されている!
気が付けばゼロスは川の真ん中で流れに乗っていた。
しかし浮かぶのだけは得意なゼロスはすっかり泳いでいる気になって上機嫌だ。
しかもゼロスは流れに乗って下流へ下流へ流されていく。
「待てゼロス!」
ハウストは慌てて川辺を走って追いかけた。
いつ溺れてもおかしくない我が息子。
はっきりいって自業自得だが説教は後だ。
ハウストは川に飛び込み、ゼロスに向かって泳ぎだす。
ここまでくるとさすがにゼロスもハウストに気が付いた。
「あっ! ちちうえだ~! ちちうえ~、お~い!」
「なにがお~いだッ、このっ……!」
ハウストは舌打ちしながらも泳ぎ、水面にぷかぷか浮いて流されているゼロスに辿りついた。
ザバァッ! 小さな体を抱っこして掬いあげる。
「ゼロス!」
「ちちうえ!」
ゼロスが嬉しそうに抱きついてくる。
上機嫌なゼロスであるが、このまま絆されて許すことはできない。
「ゼロスっ、一人で川に入るな! 一人で水遊びするなと言われていたはずだ!」
「うぅっ、ごめんなさい~!」
ゼロスがハウストに抱きついてごめんなさいをする。
とりあえず無事な姿に安堵して岸に戻ろうとしたが。
ドドドドドドドッ!!!!
激しい水飛沫の音が近づいてくる。
ハウストとゼロスは振り返り、二人揃って顔を引き攣らせた。
今、自分達は流されている。
その先は、…………滝だった。
◆◆◆◆◆◆
最初のコメントを投稿しよう!