Episode1・ゼロス、はじめてのおつかい ~お静かに、これは尾行です。~

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「私をここから解放しなさい!」 「ああ? うるせぇな、人質を逃がすわけないだろ」  一人の男がそう言うと他の男達もどっと笑いだす。  まだ陽は高い時間だというのに盗賊のアジトは薄暗くて酒の臭いが充満しているような場所でした。  盗賊に捕まった私はアジトの小屋に連れて行かれ、縄で縛られて床に転がされています。  盗賊の数は十二人。狭い小屋の床には酒瓶が転がり、男達の自堕落な性質が窺い知れるというもの。  今も村を襲う景気付けだといわんばかりに酒盛りをしているのです。 「こんな事が許されると思っているんですか?」  早くここから逃げなければ、水を汲んで戻って来たイスラは私がいない事にひどく心配してしまうでしょう。  しかし私の抵抗など男達にとっては歯牙にもかけないもので、一人の男が私に近づいてきます。  男は私の前でしゃがむと酒臭い顔を近づけてきました。 「ピーピー煩せぇな。美人が台無しだぜ?」 「私に近づかないでください。不快です」  男を睨みつける。  そんな私に男は苛立ち、髪を掴まれて顔をあげさせられました。 「ッ、離しなさい……!」 「ああ? どこの貴族様か知らねぇけどお高く留まりやがってっ。自分の立場が分かってんのかよ!」 「あなた方こそ、自分達が何をしているか分かっているんですか?」 「もちろん分かってるぜ。あんたこそ、そろそろ今の自分の立場を理解しろよッ」  男はそう言うと手に持っていた酒瓶を勢いよくグビグビと煽る。  口端の酒を手で拭うとニヤリと笑って私を見ました。 「お前も飲むか? せっかくだ、仲良くしようぜ?」  男はそう言ったかと思うと、突然私の口に酒瓶を突っ込みました。 「やっ?! あぐっ、ぅ……ゴホゴホッ」  苦い液体が一気に注がれて激しく咳き込む。  そんな私を男達は笑い、更に酒を注ぎこんできました。 「うっ、やめ……んぐッ、ゴホゴホッ……、うっ、ゴホゴホッ」  強引に流し込まれる液体。  喉が焼けるように痛い。  しかもアルコールに慣れない私の体は熱くなって、頭の中が朦朧とし始めてしまう。 「どうだ、うめぇだろ? これは隣の街からかっぱらって来た上等な酒だぜ。感謝しろよ」 「あ、ぅ……んっ」  ようやく酒瓶が空になり、口内から瓶口が引き抜かれます。  口を手で押さえられて吐き出すことも許されず、無理やり酒を飲まされました。 「ふ、あ……」  漏れる吐息が熱い。  流し込まれたアルコールのせいでお腹の中もジンジン熱くて視界がぼんやり霞みだす。  思考がぐるぐる回って、上手く考える事もできなくなっていく。 「ん……ぅ」  吐息とともに掠れた声が漏れる。  ため息をつくと熱がこもっていて、体中が発熱したように熱くて、熱くて……。 「もしかして、もう酔ったのか?」  見知らぬ男が私を覗き込む。  男に気怠い視線を向けると、男の喉がごくりっと鳴りました。 「……おい、縄解けよ」  男が私を凝視したまま言う。  その言葉に他の男達も集まってきて私を取り囲む。  ぼんやりした視界に映る男達の目は爛々として、餌を前にした獰猛な獣のよう。  ……もしかして、私は獣に囲まれている? 「……わたしは、食料では、ありません……。食べても、……おいしく、ないですよ?……」  吐息とともに説得しました。  でも獣が離れてくれることはない。  縄を解かれましたが、体が熱くて怠くて、腕を動かすのも億劫です。  でも逃げなければと身を捩る。 「こないで、くださ……い」  重たい腕を持ち上げて獣達を追い払おうとする。  しかしその腕は掴まれ、抵抗は封じられました。 「あれくらいで酔ったのかよ」 「大変だ。介抱してやらねぇとな」 「ああ、俺達は優しいからな」  獣達はニヤニヤしながらそう言うと私の体を撫でまわしだしました。  服越しに腰や足を撫でられてくすぐったい。  ……ああ、分かりました。この猛獣達は遊びたかったのですね。  良かった。食べられたらどうしようかと思いました。 「ふふふ。こら、くすぐったいじゃないですか……」  腰を撫でまわす獣の手に手を重ねる。  他にも足や腹を弄られるけれど、まずは、あなたからです。
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