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「てめぇ、絶対許さねえぇぇ!! ッ、ギャアアアア!!!!
男が手を押さえて悲鳴をあげました。
見ると男の手にはイスラの短剣が突き刺さっている。
咄嗟にイスラが短剣を投げたのです。
「ブレイラ、待ってろ。すぐに助ける」
イスラはそう言うと剣を出現させます。
その剣を構えた姿に盗賊たちは震えあがりました。
「や、やばい……っ。このガキ、あの時のガキだ……!」
「あの勇者のガキがどうしてっ……」
盗賊達に緊張が走り、私はまさかと唇を噛みしめる。
この盗賊はイスラが情に絆されて見逃した盗賊達だったのです。
「お前たち、俺を騙したのか?」
イスラが盗賊達を睨み据え、低い声で問う。
盗賊達は後ずさりながらも強がります。
「あの時はよくも邪魔してくれたな!」
「馬鹿なガキだぜ! 俺達の涙にまんまと騙されやがってっ!」
盗賊達は声を荒げて剣を構えます。
そしていっせいにイスラに襲い掛かった、刹那。
――――ザンッ!!
いっせいに吹き飛びました。
イスラの剣の一振りに誰一人近づくことも出来なかったのです。
盗賊達は床や壁に激突し、呻き声をあげながらイスラを睨み上げる。
でも威勢の良さは消え失せて、盗賊達はみるみる青褪めていきました。
盗賊達をイスラの紫の瞳が射抜いたのです。
「……そうか。俺を騙したんだな」
イスラから淡々と言葉が紡がれます。
一歩、また一歩とイスラが盗賊達に近づいていく。
盗賊達は青褪めて逃げ出そうとしますが、イスラが風のような速さで盗賊達の行く手を塞ぐ。
一人、また一人とあっという間に倒していきます。
中には反撃する者もいましたが、イスラの剣の前では無意味な抵抗。残りは一人になりました。
男は対峙したイスラに射竦められるも剣を構える。でも。
「畜生ッ、こうなったらてめぇを道連れだ!!!!」
「ブレイラ!」
イスラの鋭い声。
自棄になった男は私に襲い掛かってきたのです。
咄嗟に逃げようとするも、私の目の前で男が剣を振り上げる。
もう駄目かと身構えましたが、――――ガアアアアアアア!!!!
「クウヤ! エンキ!!」
私の影からクウヤとエンキが飛び出してきて男に飛び掛かりました。
「うわあああっ!! 魔狼だっ、ぐああっ!!」
エンキが男に伸し掛かりました。
そのまま喉笛に食らいつこうとしているので慌てて制止します。
「エンキ、殺してはいけません!!」
ぴたりっ、エンキの動きが止まる。
クウゥ~ンと鼻を鳴らして私を振り返ります。
甘えるような表情に苦笑しました。
「ダメなものはダメです。でも助かりました、ありがとうございます」
そう言って手を伸ばすと二頭の魔狼が嬉しそうに私の側に駆けよってきます。
クウヤ、エンキ、名を呼んで喉を擽ると、魔狼は気持ち良さそうに喉を鳴らしました。
「ハウストが私にあなた達を送ってくれたのですね」
「ワウッ!」
「ふふふ、そんなに鼻を近づけて、くすぐったいですよ?」
首元に擦り寄られて小さく笑う。
美しい毛並みを撫でると満足したように目を細め、私を守るように側に控えてくれました。
「イスラ、あなたも、――――イスラ?!」
振り返って息を飲む。
イスラは怖いほど静かな面差しで昏倒した盗賊の顔面に剣の切っ先を突きつけていたのです。
「ここにいる奴らは全員殺す」
「ま、待ってください! あなた、なにを言ってるんですか?!」
思わず声をあげました。
でもイスラは真剣で、紫の瞳が冷淡に男を射抜いている。
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