Episode1・ゼロス、はじめてのおつかい ~お静かに、これは尾行です。~

23/36
前へ
/57ページ
次へ
「ブレイラ、甘いこと言うな。俺が甘かったからブレイラはこんな目に遭ったんだ」 「イスラ……」  イスラの怒りと遣る瀬無さが流れ込んでくるようでした。  あなた、裏切られたことに傷付いているのですね。  見抜けなかった自分に怒りを覚えているのですね。  私はゆっくりとイスラに近づきました。  そして剣を握り締めているイスラの手に手を重ねます。 「イスラ、もう充分です。これ以上はいけません。この村の警備の兵士に引き渡しましょう」 「駄目だ、こいつらは繰り返す。信じた俺が馬鹿だったんだっ」 「そんな悲しいことは言わないでください」 「でもっ、ブレイラだってそう思ってるだろ?! ハウストは最初から見抜いてたのに俺は気付かなかったんだ! ブレイラも俺を甘いって思ったはずだ!」  イスラは激昂したように声を荒げました。  苦しそうな顔をするイスラに私も苦しくなって泣きたくなったけれど、ゆるゆると首を振って笑いかけます。  そしてイスラの胸板にそっと手を置きました。 「悲しかったですね。痛かったでしょう」  手の平に感じるイスラの鼓動。  その音をもっと感じたくて両腕でイスラを抱きしめました。  突然の抱擁にイスラは小さく驚いていますが、構わずに両腕に閉じ込めてあげます。私はイスラを離したくない。  私はイスラをぎゅっと抱きしめたまま優しく語り掛けます。 「でもね、イスラ。どれだけ傷付いても信じることをやめないでください。今回は裏切られたけれど、諦めてしまわないでください」 「ブレイラ……」  おずおずと顔をあげたイスラに笑いかける。 「あなたが諦めてしまったら、あなたを信じている私はどうすればいいんですか。だからどうかそのままでいてください。大好きだと言ったでしょう?」  そう言ってイスラの目元に口付けます。  イスラは口付けに目を丸めるも、強張っていた顔を緩めてくれました。 「ブレイラ」私の名を呼んでイスラもぎゅっと抱きしめ返してくれる。  そんなイスラの背中を宥めるように撫でました。  傷付いた心を乗り越える事はとても強さを必要とすることだけど、あなたなら出来ると信じています。だって私を何度も救ってくれた、あなただから。  今はハウストとゼロスもいるけれど、私の家族はイスラから始まりました。あなたがいるから私もこうしていられるのです。  ふと、抱きしめていたイスラの胸板に硬い物があることに気付きます。  もしかしてとイスラの首元にあるチェーンを引っ張って懐から取り出しました。 「これ、持っていてくれているんですね」  それは私が贈った祈り石のペンダントでした。 『あなたが守られますように』と祈りとともに贈ったものです。 「ああ、ずっと持ってる。俺の大切な宝物だ」 「ふふふ、そうですか」  肌身離さず持っていてくれるのですね。  それは二年前の冥界創世の時に一度砕けてしまった物だけど、その破片を集めてもう一度作り直してもらったものです。  私は手中のペンダントにそっと口付ける。  何度でも祈ります。あなたの為に。 「忘れないでください。どんな時も私はあなたを思っています。あなたが守られますように」 「……これ、一度壊れてるぞ?」 「構いません。これは壊れても壊れないものですから、いいんです」 「どういう意味だ?」 「そのままの意味ですよ」  そう言って笑いかけるとイスラの手を引いて小屋を出ました。  薄暗かった視界が一気に明るくなって眩しいくらい。  気絶した盗賊達を村の警備兵に引き渡すとほっと安堵しました。彼らは然るべき法で裁かれなければいけません。  こうして盗賊の一件が解決し、後はハウストとゼロスに合流するだけです。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加