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「口をゆすいでもいいですか? アルコールの匂いがするんです」
僅かにお酒の匂いが残っています。お酒を飲んだ後の記憶はありませんが、漂う匂いに強引に飲まされた事を思い出してしまうのです。
幸いにも盗賊のアジトの近くには川が流れていて、私とイスラはクウヤとエンキを連れて川辺へ行きました。
「落ちるなよ?」
「あなた、ハウストみたいなことを言いますね。私は落ちませんよ」
イスラの意地悪な言葉に笑って言い返しました。
いつものイスラが戻ってきたようで良かったです。
私は川辺に座り、両手で水を掬いました。
口をゆすぐとお酒の匂いが薄らいですっきりしていきます。
しばらく口をゆすいでいましたが、ふと上流に黒い影が。
こちらに流れてくる黒い影になんとなく視線を向けて……。
「えっ、ええええ!?!!」
驚愕しました。
だって、だって、流れてきた黒い影はハウストとゼロスだったのです!
上流からハウストがゼロスを背中にしがみ付かせて泳いできました。
「な、なななんでそんな事になってるんですか?!」
「…………意味が、分からん」
私とイスラが唖然とするなか、泳いでいたハウストが私を見つけてザバリッと立ち上がる。
背中にしがみ付いていたゼロスもハッとして顔をあげました。
「う、うええぇぇぇん!! ブレイラ、ブレイラ~!!」
泣きべそをかいてゼロスがハウストの背中から手を伸ばしてくる。
ハウストは騒ぐゼロスを背中にしがみ付かせたままザブザブと歩いてきます。
目の前に立ったハウストを唖然と見上げてしまう。
泳いでいた二人からはポタポタと雫が落ちて、なにがなんだか分かりません。
ハウストは濡れた前髪をかきあげるもムスッとした顔をしています。
「……な、なぜそんな事に」
「川を下っていれば辿り着くと思ったんだ」
ハウストはそう言うと、背中にしがみ付かせているゼロスをずいっと前に突き出しました。
「うわああああん!! ブレイラ~!! ぼく、およいでたらひゅ~っておちて、ざぶ~んてしたの~!!」
「……ますます意味が分かりません」
そう答えつつも突き出されたゼロスを受け取ります。
するとゼロスは私にぎゅ~っと抱きついてきました。
「ああゼロス、泣かないでください。泣いてはいけませんよ」
「あう~っ、ブレイラ~!」
私の肩に顔を伏せて、えんえん声をあげて泣いている。
抱っこしたゼロスの背中を撫でながらハウストを見ました。
「いったい何があったんですか。どうしてゼロスはこんなに泣いてるんです?」
私の質問にハウストは苦々しい顔をする。
少し返答に困っているようですが、とても疲れ切った顔で話してくれます。
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