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「……滝から落ちたんだ。ゼロスが一人で川遊びをして流されて、そのままな」
「ああ……、なんとなく分かりました」
なんとなく察しましたよ。
疲れ切ったハウストの顔からも窺えます。
「その、えっと、……お、お疲れ様でした」
「……ああ、こんなふうに疲れたのは初めてだ」
「お察しします……」
心の底から同情します。
とても、とても、とても大変だったことでしょう。
ハウストとお話していると、『滝』という言葉にゼロスが反応する。
「こ~んな、こ~んなおおきなとこだったの! ひゅ~っておちて、ざぶんって!」
ゼロスが泣きながら身振り手振りで説明してくれます。
とても大きな滝だったようで、見上げるような高所から落ちたのですね。
「それは怖かったですね。でも怪我もないようで良かったです」
「ちちうえが、だっこしてくれたから、だいじょうぶ」
「そうでしたか」
ゼロスをいい子いい子と撫でる。
どうやら滝から落ちた時はハウストがゼロスを抱っこしていてくれたのでしょう。そこからハウストはずっと背中にしがみ付かせて泳いで下ったのですね。……ほんとうに、ほんとうに大変だったことでしょう。
苦笑してハウストを見つめます。
「ゼロスをありがとうございます」
「まあな」
「でも滝から落ちて、よく無事でいられましたね」
「当たり前だ、俺を誰だと思っている。ゼロスも冥王だ」
「ふふふ、そうでしたね。ゼロスもよく頑張りました」
そう言ってゼロスの顔を覗き込む。
ゼロスは大きな瞳を真っ赤にしていましたが、褒めると照れ臭そうにはにかみました。
「あのね、ブレイラ、ちょっとまってて」
そう言ってゼロスが肩にかけている鞄をごそごそ漁りだす。
水没した鞄は中も外もくったり濡れていますが、ゼロスはそこから薬草を取り出しました。
「これ、あげる!」
「あ、頼んでいた薬草じゃないですか! ちゃんと見つけてくれたんですね!」
「うん! ぼく、ちゃんとおつかいできたでしょ?」
ゼロスが誇らしげに言いました。
その様子に愛しさがこみあげて、ぎゅっと抱きしめて頬を寄せます。
「はい、ちゃんとおつかいできましたね。偉いですよ?」
「ぼく、えらい!」
エヘヘと笑うゼロスに私も笑みを浮かべましたが。
「でも、どうしてブレイラいるの? ちちうえとあにうえも」
「えっ……」
この質問に言葉に詰まる。
まさかゼロスを尾行していたとは言えません。
でもゼロスは不思議そうに私を見ています。
ここは何とか誤魔化さなければ。
「そ、それはですねっ、私たちも遊びに来たんですよ!」
「えええ~! ぼくも! ぼくもいっしょ!!」
ゼロスが瞳を輝かせて騒ぎだしました。
良かった。どうやら誤魔化されてくれたようです。
「もちろんいいですよ。でもまずは……」
ハウストとゼロスを見て苦笑してしまう。
滝から落ちて川を泳いできた二人は全身から水が滴るほど濡れている。
「先に服を乾かしましょう。遊ぶのはそれからですよ」
私はイスラに頼んで焚火に火を起こしてもらいました。
こういう時、やっぱり火炎魔法って便利ですよね。
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