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「ゼロス、こちらを向いてください。拭いてあげます」
ハンカチでゼロスの口の周りを綺麗に拭いてあげました。
んっと突き出す小さなお口が可愛いですね。
「はい、綺麗になりましたよ」
「ありがとう、ブレイラ!」
ゼロスを綺麗にしたら、次はイスラの番です。
「イスラ、あなたも手をこちらに」
「俺も? 別にいいのに」
躊躇いながらも差し出された手を丁寧に拭いてあげます。
少し恥ずかしそうで可愛いですね。
「ほら、あなたの手も綺麗になりました」
「ありがとう」
「いいえ。さあ、他にもこの山には食べられる果実がありそうですね。一緒に探しましょう」
そう笑いかけて、また四人で山を歩きます。
しばらくすると今度はイノシシを見つけました。
遠目にも丸々太った獰猛なイノシシです。私一人なら逃げるところですがハウストとイスラにとっては脂ののった食材。
「狩ってくる。イスラ、お前はブレイラの側にいろ」
「分かった」
イスラも狩りに行きたそうですが、私の側にとハウストが指示をします。
「私は大丈夫ですよ? だからイスラも」
「ダメだ。山にブレイラを一人にできない」
イスラに反対されてしまいました。
イスラが行きたいのならと思ったのですが余計な事のようでした。
「イスラ、ありがとうございます」
「当たり前だ」
こうして私とイスラがここで待つことになりました。もちろんゼロスも私と一緒に待たせるつもりでしたが。
「ぼくもいく!」
ゼロスが張り切って手を挙げました。
この立候補にハウストがぎょっとする。
「来るのか、お前が……?」
「ぼくもいく~! ちちうえといく~!」
ゼロスはハウストの足にしがみ付いて一緒に行きたいと駄々をこねる。
ハウストは全力で拒否したいところでしょうが、悩むような顔でゼロスを見下ろします。イスラがゼロスくらいの頃にはすでに狩りも戦闘もしていたのです。
「……分かった。だが勝手にふらふらしないと約束しろ」
「する! ぼく、ふらふらしたことないよ?!」
胸を張って答えたゼロスに、うそをつくな……とハウストが脱力する。
でもこうしてハウストとゼロスが狩りに行き、見事に夕食のイノシシを狩って来てくれます。
戻って来たゼロスはなぜか泣きべそをかいていましたが、……理由を聞くのが怖いです。
日が暮れて、山はすっかり夜の闇に覆われました。
川辺で焚火を起こし、満天の星空の下で夕食後ののんびりした時間を過ごします。
今夜の夕食は豊かな山の幸でした。青々とした山菜や甘い果実。ハウストとゼロスが狩ったイノシシの肉。イスラが魚を釣ってくれたので川魚もありました。
急に決まった野営でしたが私たちはお腹いっぱいに食事を楽しむことができました。
ゼロスなどは城では食べられない料理が珍しかったようで、あれもこれもと手を伸ばして大満足したようです。特にイノシシのお肉は格別だったようですね。
今も私の膝に座ってイノシシを狩った時のことを話してくれている。
「あのね、ぼくがイノシシにわあってしたの。そしたら、ちちうえがえいって。でもぼく、ちちうえにコラーッてされて、え~んってした」
「ゼロスがわあってして、え~んってなったんですか?」
「うん。わあって、え~んって」
ゼロスが身振り手振りで教えてくれる。
でもあまり意味が分からなくてハウストを見ると、違うそうじゃない……とばかりに彼が首を横に振ります。
「……俺は隠れていろと言ったんだ。だがゼロスの奴、突進するイノシシの前にいきなり踊りでて、なにをしたと思う」
「な、何をしたんです?」
聞きたいような聞きたくないような……。
ごくりと息を飲んだ私にハウストが重々しい口調で語ってくれる。
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