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「……わあっと、驚かしたんだ。怪我がなかったから良かったようなものを……」
「それは大変でしたね……。ゼロスなりに手伝っているつもりだったんでしょうが」
「さすがに叱った」
「それでゼロスは泣きながら帰って来たんですね」
ああ、やはり何も起きてないわけじゃなかったんですね。
狩りに行った二人が戻って来た時、ハウストは肩にイノシシを担ぎ、その隣をゼロスがグズグズ鼻を啜りながら歩いていたのです。何かあったと思いましたが叱られて泣いた後だったのですね。
「ゼロス、走ってくる動物の前に飛び出してはいけませんよ。危ないじゃないですか」
「……だって、おてつだい、したかったから」
「そうだったんですね。でも、それであなたが怪我をしたら悲しいです」
「かなしい?」
ゼロスが私を見上げて首を傾げる。
大きな瞳にじっと見つめられて優しく目を細めました。
「はい、私はきっと泣いてしまいます。だから気を付けてくださいね」
「わかった! もうしない!」
「お利口です」
ゼロスの頭をいい子いい子と撫でて、ハウストを振り返ります。
「ゼロスをありがとうございました」
「……なんとなく、こうなる事は分かっていた」
「ふふふ、お疲れ様です」
「お前は俺達が狩りをしている間どうしていたんだ。なんともなかったか?」
「はい、イスラがいてくれたので大丈夫です。イスラの魚釣りを見学させてもらいました。すごいんですよ? あっという間に竿を作って川魚を次から次へと釣りあげたんです。ね、イスラ?」
イスラがこくりと頷く。
イスラの返事はぶっきら棒ですが、あれは照れている時の顔ですね。
「イスラが釣ってくれた魚、とても美味しかったです。旅をしている時も釣りをするんですか?」
「時々してる。気分転換に丁度いいんだ」
「そうでしたか。手際が良いので驚きました。また釣りに付き合わせてくださいね」
「ああ」
こうして私たちは今日の出来事を語り合う。
気が付けば夜空の月も輝きを増して、抱っこしているゼロスの頭がこくりこくりと揺れています。
「ゼロス、眠くなったんですね」
「……ううん。まだねむくない」
ゼロスは首を振って重い瞼を擦ります。
無理やり目を覚まそうとする姿に小さく笑う。
今日がとても楽しくて、今の時間がもっと続いてほしくて、眠ってしまうのが勿体ないのですね。
その気持ち、私も同じです。
でも今日が終わっても楽しい時間は終わりません。これからも続くものです。
「ゼロス、また皆で遊びにきましょう。だから今夜は眠りなさい」
「……やくそく?」
「はい、約束です」
「…………わかった。ねる」
「いい子です」
ゼロスを抱っこし、私のヴェールを草原に敷きました。
薄手のヴェールなので草で少しチクチクするかもしれませんが今夜はこれで我慢してくださいね。
「どうぞ。ここで横になってください」
ヴェールの上にゼロスを寝かせます。
ゼロスはとても眠たかったようで寝転がると大きな欠伸をして瞳をうつらうつらさせました。
「草は痛くありませんか?」
「だいじょうぶ……。おやすみ、ブレイラ……」
「おやすみなさい」
ゼロスの丸い額におやすみなさいの口付けを一つ。
そうすると嬉しそうにはにかんで、瞳を閉じてすぐに眠っていきました。
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