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「ふふふ、とても疲れていたんですね。もう眠っていきました」
ゼロスの寝顔に笑いかけ、次はイスラを振り返る。
広げたヴェールはあと一人分のスペースがあります。
「イスラ、あなたもここで眠りなさい」
「ダメだ。そこはブレイラが寝ろ」
きっぱり断られてしまいました。
イスラならそう言うのではないかと思っていました。この子、幼い頃からなにかと私を気遣ってくれるのです。
でもダメ。私だって譲れません。
「いいえ、あなたが眠ってください。私はあなたの親ですよ。あなたを差し置いてここで眠れというのですか?」
「でも」
「お願いです、言うことを聞いてください。あなたがここで眠ってくれないと、私は今夜眠れぬ夜を過ごすことになります」
ね? イスラの顔を覗き込む。
するとイスラは困ったように顎を引いて、渋々ながらも頷いてくれました。
「分かった……」
「ありがとうございます。さあ、どうぞ」
促すとイスラが横になってくれる。
イスラの眠りを見守れるのは久しぶりで、なんだか懐かしい気持ちがこみあげます。
私はイスラの前髪を優しく指で払い、露わになった額に口付けを一つ。
「イスラ、おやすみなさい」
「おやすみ、ブレイラ」
イスラは少し照れ臭そうな顔になりましたが自分の腕を枕にして目を閉じる。
しばらくするとイスラからも寝息が聞こえてきました。
二人の子どもが眠り、私はハウストの隣へ戻ります。
「こうした夜を過ごすのも、なんだか懐かしいですね」
「イスラは今でこそああだが、ゼロスくらいの頃はお前の添い寝がなければ眠れないと駄々をこねたこともあったな」
「はい。…………今ももう少しくらい駄々をこねてくれてもいいんですが」
「おい」
ハウストが呆れた目で私を見ます。
……なんですか、その目は。
「冗談ですよ」
「冗談に聞こえなかったぞ」
「……気のせいです」
そっと目を逸らした私をハウストが疑わしげに見ます。
何が言いたいのか分かっています。私だって少しくらい自覚はあります。……でも仕方ないじゃないですか、私はイスラが可愛いのです。
そしてもちろんゼロスも。
「ハウスト、あなたも今日は大変だったでしょう。ありがとうございました」
「……ああ、こんなに疲れるとは思わなかった」
「ゼロスはまだ子どもですから……」
ゼロスは冥王でありながら普通の子どものように心豊かに感情がくるくる変化します。笑ったり、泣いたり、拗ねたり、怯えたり、駄々をこねたり、ほんとうに毎日が忙しそう。
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