Episode1・ゼロス、はじめてのおつかい ~お静かに、これは尾行です。~

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◆◆◆◆◆◆  翌朝。  東の空が朝焼けに染まる頃。  ハウストが目を覚ますと、まだ早朝だというのにブレイラは既に起きて朝食の支度をしていた。  昨夜の食材から朝食用に残しておいたものを調理しているのだ。  眠っているイスラとゼロスをそのままにハウストはブレイラの側へと行く。 「おはよう、ブレイラ」 「おはようございます。もう起きたんですね。もう少し眠っていても良かったんですよ?」 「お前こそもう少し寝ていれば良かっただろ」  ブレイラの腰を抱き寄せ、頬に口付ける。  ブレイラはくすぐったそうにはにかんでハウストの頬にお返しの口付けをした。  それだけでハウストの口元が自然に緩む。  不思議なものだ。頬への口付けなど子どもの戯れのようなものなのに、それがブレイラだというだけで今まで感じたことのない多幸感を覚えるのだから。  単純な自分に笑いたくなるが、それでも悪い気はしていない。  そして一度の口付けだけじゃ足りなくなる。  もう一度と唇を寄せたが、寸前でブレイラに指を立てられた。  邪魔されて目を据わらせるもブレイラが苦笑する。 「先に顔を洗って来てください。お髭を剃るのも忘れないでくださいね、チクチクします」 「……チクチク」  ハウストが憮然としながら顎を触った。  たしかに寝起き特有の無精髭の感触がある。  むっとしたハウストにブレイラは小さく笑い、ハウストの頬に口付けた。  不意打ちの口付けにハウストが眉を上げる。 「チクチクするんじゃなかったのか?」 「無精髭のあなたも素敵です。あまりチクチクされても困りますが、いつもと趣が違ってそれはそれでかっこいいと思っていますよ」 「そうか」  ハウストの頬が緩む。  やはり単純な自分に笑いたくなる。でもやっぱり悪い気はしないのだ。 「では、続きは顔を洗ってからとしよう」 「ふふふ、待ってますね」  ブレイラに見送られ、ハウストは川に向かった。  川辺の岩に腰を下ろして顔を洗って髭を剃る。  携帯しているナイフで無精髭を剃っていく。ブレイラが好きだというなら髭を伸ばしてもいいが、チクチクはやはり困ると言っていた。なによりブレイラの肌を傷付けてしまっては本末転倒だ。  こうしてハウストが髭を剃っていると背後から馴染んだ気配が近づいてきた。イスラだ。  寝起きのイスラがハウストから二人分離れた川辺に立った。  イスラもブレイラに顔を洗ってくるように言われたのだろう。 「おはよう」  ハウストが髭を剃りながら声をかける。  すると「……はよ」と短い返事が返ってきた。  前を向いたままなのでイスラがどんな顔をしているか分からないが、でもどうしてだろうか、だいたい分かる。  ブレイラにはしっかり「おはよう」と挨拶しただろうに、今は無愛想な顔をしていることだろう。  イスラもゼロスくらいの時はハウストにも「おはよう」と返してくれていたのだが、今はまあそういう年頃ということだ。  ハウストの隣でイスラが川で顔を洗い、短剣で髭を剃り始めた。  その姿にハウストは内心少し驚く。先ほどそういう年頃かと思ったばかりだが改めて実感したのだ。イスラも男なので髭が生えるのは分かるが子どもだった時の印象が強いのである。  ふとハウストは髭を剃りながら口を開く。
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