4 月音の能力(ちから)

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「無理にそう呼ばなくていいよ、煌くん。来た事はないよ。小路の若君がうちに突撃したことがあって、知り合いになったくらいで、直接行き来のある流派でもないから。――だから私、今すっごい緊張してる。心臓吐きそう」 心臓を押さえる碧人は紫の顔色をしている。 ここでも似ている親子だ。 「だ、大丈夫ですよ、月音ちゃんもここにいるんだし」 「それが問題なんだよ。普段から問題行動の多い娘が、御門邸内にいて何も問題を起こしていない自信がない」 「う……」 煌、碧人の言葉を否定出来なかった。 白桜に言われてとどまっているのだから、そう心配はないと思いたいが……。 不安が加速する煌と碧人を見てきた黒藤がため息をつく。 「心配なのは百合姫の方だろ。月音に何してるかわかんねえ」 「えっ、水旧って何かあるんすか?」 「まあ……な」 (えっ!?) 答えたのが白桜だったので、煌、心配になってきた。 しかも白桜は逃げるように視線を煌と碧人から逸らしている。 な、なにがあるんだ……!? 「は、早く行きましょうっ」 煌が焦って促すと、先頭を歩く黒藤が「ここだ」と言ってふすまを開けた。 「月音ちゃん大丈夫――、?」 「あっ、小田切くん」 振り返った月音は、背中の中ほどまでの、いつもはおろしているだけの髪を編み込んで結い上げられ、化粧も施された顔だった。 「可愛い!」 「えっ?」 「あ、ごめんつい……」 思わず叫んでしまった煌は、決まり悪そうにうつむく。 「月音、待たせてすまない。百合姫、楽しそうだな」 白桜が言うと、月音の唇に紅(べに)を載せていた百合緋がにこーっとした。 「ええ。月音ちゃん、本当いじり甲斐があるわ。どんな髪型も似合うんだもの」 百合緋が、ほくほくした顔で言う。 「天音(あまね)、留守をありがとう」 「いえ。わたくしも楽しく拝見させていただきました」 白桜に答えるように聞いたことのない声が耳に届いて、煌は顔をあげた。
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