恋の最適解

　僕が想定した数十パターンの中で最悪な展開だ。

　そして想定していたとはいえ、現実に口に出されると致命傷レベルのダメージだ。しかしルミちゃんの前で荒ぶったり吐血したりするわけにはいかない。

　この危機をいかに乗り越えるべきか、頭を超回転させながら僕は努めて冷静に振る舞った。

「どうしてかな。僕はルミちゃんのことが大好きだし、ルミちゃんも、僕のことが大好きでしょう」

「そうなんだけど……」

　うっかり肯定してしまうルミちゃんがまた可愛らしく、その言質が取れたところで僕の傷はある程度塞がった。

　頭を整理しているのか、しばらくの間ルミちゃんの尖った唇はティーカップの端に触れては離れを繰り返し、ミルクティーが３分の１程度減ったところでようやく僕に向かって動かされた。

「ねえ、タッくんは『最良選択問題』って知ってる？」

　突如、理学部の僕にとって馴染み深い単語が出てきて驚いた。ルミちゃんは時々話が飛躍する。そういうところも面白味があり飽きなくて、ルミちゃんは最高の恋人なのだ。

　僕は専門分野の話題に余裕を取り戻し、ゆったりと構えて応じることができた。

「ああ、『秘書問題』や『結婚問題』とも呼ばれる数学の問題だね。ルミちゃんも理系だから、大学１年のときに必修の基礎数学の講義で知ったのかな」

　僕が知っていたことに安堵したのか、ルミちゃんはそのまま勢いをつけたように饒舌になる。