15:未来

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15:未来

 西暦が終わって八十二回目の春が来た。  世界首脳会議により技術革新に対する新たな声明が出された後も、ネオライフの名称は引き続き使用されることが決定された。西暦に戻す案や新たな呼び方をつける案も出されたが二度のスマホ戦争、そして人工知能による世界の支配の教訓を忘れないため、これからもネオライフの呼称は継続されることとなった。  あれから九か月余り、もちろん混乱がなかったわけではない。シロが発動したANSの効果は五年ほどで消える。その後はまたインターネットを中心としたネットワークやAIと言ったサービスが人類に新たな結びつきをもたらすだろう。そこに向けての新たな取り組みは始まったばかりだ。 『技術を扱うのはあくまで人間の心持ち次第』 『技術は人を幸せにするためにある』  ジョージ・サトウと松上幸助が遺したこの言葉は世界の技術開発に関わるものすべてにとっての教訓として広がった。  マナソニックも結成当初の目的は果たし、改めて「よりよい世界と人生に向けてサポートする」を経営理念に再出発をした。また改革党は解党し、自公党と改革党の一部が今までの政党の枠を超えてつくられた新党が先の総選挙で新たな日本の政権与党となった。  産業の育成に対する政府の方針が大きく変わった影響で工業高校への進学希望者も急増した。今年度からはどの学校も定員を拡大して入学者数を増やす方向のようだ。  それは瑞樹の学校も同じだ。瑞樹も登校してくるまでに、どこかきらきらとしている新入生の姿をたくさん見かけた。瑞樹にしては珍しく今朝は早く登校してきた。昨夜も機械をいじっていて、気づけば朝の四時になっていた。  今から寝てしまっては二年の始業式早々に遅れてしまうと思った瑞樹は徹夜のまま学校に来ることを決めた。どうせ式と学活で午前中には終わる。そう自分に言い聞かせて、早めに学校についた瑞樹は、新しい教室でもすぐにぐったりと自分の机でふせていた。 「おはよう、瑞樹くん! 今年も同じクラスだね」  突然、体を揺すられた瑞樹が体を起こすと隣の席に笑顔のリンがいた。 「一クラスしかないから同じクラスなのは当たり前だろ」  瑞樹は睡眠を妨害されて仏頂面で答えた。 「いや、そうじゃなくて無事進級できたねって意味! 瑞樹くん、出席日数ぎりぎりだったでしょ?」 「……そっちか。まあ、何とか滑り込んだって感じだけど、さすがに前半のマナソニックにいた分は欠席から省いてくれたみたいだな」 「今年の一年生は数も多いし、瑞樹くんが紛れていてもわからなかったかもよ」  リンがケラケラ笑いながら言う。去年は一クラスしかなかった一年の学級が今年度は急に五クラスに増える。段階的にさらに倍まで増やす予定らしい。
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