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狩猟管理区と言っても基本は森だ。猟区管理者は巡回の義務があるが、州の九割を占める森林を周り切れる訳がない。少し奥に入れば、そこは目の届かない弱肉強食の世界だ。だけど家の裏手の森は僕たちの縄張りであり、庭に過ぎない。
一度だけ、狩猟の最中に管理者に遭遇したことがある。
「何故子供がいる」
「見学ですよ、旦那」
酷く篭る声で父は答えた。言葉を選ぶのに時間が掛かっているようだった。音を立てないのが癖になっている。
「息子です。母親が居ない」
「……くれぐれも猟銃に触らせないように」
そう言って管理者は去った。昔は今より緩かった。お咎めなしで解放された僕たちが、その言い付けを守ることはなかった。管理者が遠く離れたのを確信してから、僕は再びライフルを手に取った。
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